大奥で働く少女が亡霊たちの心残りを解き明かすーー心温まる物語『大奥の御幽筆』

ことのは文庫『大奥の御幽筆』レビュー

次第に紐解かれる佐之介の記憶と「決まっている」別離の行方

 シリーズを貫く謎である、美しい総髪の亡霊・佐之介にも注目したい。

 いつ死んだのかも定かではない佐之介の記憶は巻が進むにつれて次第に紐解かれていくのだが、断片的に蘇る記憶には不穏な影が漂う。2巻から登場する亡霊を操る力を持つ謎の僧侶や里沙の祖母とも関わりがあることがわかる佐之介の謎は、まだまだ明かされていないことばかり。

 おまけに、里沙と佐之介は互いに惹かれ合うようになっていく。里沙のこととなると小さなことにもしっかり反応してみせる佐之介の気持ちは読者には筒抜けであり、里沙が佐之介に好意を抱いているのは野村やお松にもすっかりお見通しである。とはいえ、里沙の気持ちは時に優しく揶揄われる一方で、やんわりと釘を刺されたりもする。

 何せ、人である里沙と亡霊の佐之介は別れが約束されている関係だ。佐之介の記憶が戻って心残りが解消されれば、彼は成仏していなくなってしまう。だからこそ、里沙は佐之介に好意を持ちすぎないよう気をつけようとしているのだが、心の動きは思うままにならないもので……。二人の関係が今後どうなっていくのかも気になるポイントだ。

 生きていれば等しく訪れる大切な人との別れは、一度訪れてしまえばなかったことにはできない。でも、一緒に過ごした時間がそれでなくなるわけではない。

 『大奥の御幽筆』は、そうした人の営みの愛おしさを味わわせてくれる物語だ。大奥という閉ざされた場所でどのような人の想いが掬い上げられるのか、里沙と佐之介が迎えるその瞬間がどのように訪れるのか……さまざまに想像を巡らせながら続刊を楽しみに待ちたい、おすすめのシリーズだ。



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