M!LK・山中柔太朗こそ“令和の実写化王子”だ 『黒崎さんの一途な愛がとまらない』で見せた生身の演技

M!LK・山中柔太朗こそ“令和の実写化王子”だ

令和の実写化王子・山中柔太朗に不可能はない

 基本的に、各局深夜枠で放送される実写化ドラマは、序盤のストーリー展開や台詞の一字一句を原作漫画に対して忠実に再現することが多い。主には予算(工数)の都合上、大胆なオリジナル要素を新開発するよりも、原作を尊重しながらほどよい脚色でアレンジする方が効率がよく、無理のない範囲で作品クオリティを担保できるからだ。

 ただし、あまりにも非現実的なシチュエーションや台詞をそのまま再現する場合、ドラマ全体のリアリティ面を支え、担保できるのは(極論)生身の俳優だけだ。その点、山中柔太朗はどんな原作描写でもしなやかに翻案する術を心得ている。彼の主演最新作『黒崎さんの一途な愛がとまらない』(日本テレビ系)は、スランプだった小説家・黒崎絢人(山中柔太朗)が空腹に耐えかねてお握り屋(原作では弁当屋)に立ち寄り、看板娘の白瀬小春(豊嶋花)に一目惚れするという物語。導入としてはよくある設定といえるが、黒崎が突拍子もなくプロポーズする発端はかなりエキセントリック…。

 常連客になった黒崎がふらりと店にやってくる。接客する小春が注文を聞く。すると黒崎は「梅と鮭をひとつずつ」に続いて自然な流れであるかのように「結婚してください」とプロポーズする。小春は怪訝に思う。しかも10億円の預金口座通帳まで持参するトンチンカンなだめ押し。普通に怖い。ご時世柄、完全にセクハラだ。イケメンならセクハラも許されるのか? いや、こんな人そもそもいるわけない。ラブコメ漫画の突飛な常識は常に現実の非常識だ。なのにドラマは岡田ピコによる原作の設定をほとんど脚色することなく、この発端場面を再現する。さすがに山中も再現しきれないだろうと(ドラマを見る前から)不安になるが、令和の実写化王子に不可能はなかった。

ダンス&ボーカルグループに所属する俳優は実写化に最適な人材

 2010年代、日本映画界は空前のラブコメ映画(所謂きらきら映画)ブームだった。『ヒロイン失格』(2015)や『オオカミ少女と黒王子』(2016)など、興行成績的にも成功を収めた山﨑賢人は「実写化王子」の異名を取った。今ではきらきら映画という表現もあまり使われなくなり、平成後期の山﨑以降、決定的な旗振り役は不在状態だった。令和に改元後の2020年代も、ラブコメ映画興行が以前のように上向いているわけではないものの、山﨑と同じ事務所(スターダストプロモーション)に所属する山中柔太朗が令和の実写化王子像をじわじわ体現しつつある。

 山中はスターダストプロモーション所属「M!LK」のメンバーとして活動している。アイドル的人気がある、ダンス&ボーカルグループであり、メンバーの演技にも定評がある。歌って、踊れ、演技も上手い。三拍子揃ったきらきら特性が令和の実写化王子像を自然と形成する。2022年放送のBLドラマ『飴色パラドックス』(MBS)では、LDH所属のダンス&ボーカルグループ「FANTASTICS」のパフォーマー・木村慧人と共演することで、リズミカルな相乗効果がきらめいた。同作もまた、原作に忠実な再現を施した深夜枠ドラマだった(名匠・古厩智之監督の演出手腕が光ってもいた)。公開中のBL映画『純愛上等!』でも、ダンス&ボーカルグループ「超特急」のメンバー・髙松アロハとのW主演だ。

 ダンスは身体表現であり、演技は生身の俳優にしかできない。その上でほどよいアイドル的資質が(非現実的な)ときめきを供給する。突拍子もない設定がある原作漫画の実写化には、「こんなのあり得ない」、「バカバカしい」と観客や視聴者に思わせない、絶妙な塩梅で表現できる俳優が求められる。そもそも2次元を実写化する時点で、見る者は俳優の生身の表現(身体)に期待を寄せているのだ。だからこそ、ダンス&ボーカルグループに所属する俳優は実写化に最適な人材といえる。

実写ならではの偶然が輝く愛すべき細部

 『黒崎さんの一途な愛がとまらない』では、生身の演技を際立たせる、実写ならではのアレンジが散見される。唐突な通帳プロポーズ大作戦で撃沈した黒崎は明くる日、また店にやってきて今度は自分のことを知ってほしいからと、免許証と卒業証書を持参する。これまたホラーなアプローチだが、原作の小春は免許証に写る黒崎が前髪を分けておでこをだしていることに気付く。それに対して黒崎が実際におでこをだして見せるのだが、ドラマではこのくだりをあざやかにアレンジする。

 第1話終盤、店内で転びそうになった小春を抱き抱えた黒崎のヘアースタイルに注目。下ろした前髪スタイルから七三分けへ。単純に新鮮味があるが、原作の描写に少しだけ手を加え、山中のビジュアルを不意にイメチェンさせることで視聴者をハッとさせる。さらに第2話、黒崎が小春の弟と公園でごっこ遊びをする場面は、原作にある黒崎の自宅マンションから置き換えている。ごっこ遊び中の黒崎がやられたと言って、芝生に倒れたふりをすると、彼が着る黒のロングコートに草が付着するのがわかる。原作通り、マンションの室内だと付着することはない。それをあえて屋外に設定することで、草が付着するという細かな描写にリアリティが宿る。

 脚本のト書きに「黒崎のコートに草が付着して…」などと書かれていたわけではないだろうし、撮影現場で山中の肘の辺りにわざわざ付着させたわけでもないだろう。山中柔太朗の身体に偶然、草が付着したに過ぎない。でもそれが実写ならではの偶然であり、山中はその偶然を愛すべき細部として輝かせてくれる。令和の実写化王子はなかなか芸が細かい。

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