【漫画】友達に「よかったね」はダメ? こどもからこどもへの無垢なる「祈り」が切ない『ありがちな思い出話をしよう』

【漫画】友達に「よかったね」はダメ?

 「今でも覚えてる/桜も散りきった小学六年の春のこと/風に舞った砂ぼこりが光の粒みたいにキラキラしてた」。上記はSNSで投稿されている漫画『ありがちな思い出話をしよう』冒頭の一節。本作は2人の小学生が過ごした1年間が描かれる作品だ。

 四季の移ろいとともに描かれる、こども時代に目にしていた世界の美しさ。光と影が織りなす緻密な背景描写もさることながら、無邪気さの裏側に潜む「大人にならざるを得ない」瞬間の残酷さが描かれ、読者の胸を焦がしている。

 作者・飴野まちさん(@matiki_shi)によると、本作には自身の体験が込められているという。作品に込めた原体験や背景描写へのこだわりなど、話を聞いた。(あんどうまこと)

続きを読むには画像をクリック

『ありがちな思い出話をしよう』(飴野まち)

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

飴野まち(以下、飴野):本作はフィクションでありつつ、半分は自分の話が含まれています。小学校のときに仲良かった子がいたのですが、その子と自分は家庭環境がものすごく違うなと感じたことがあり。その思いが自分の中で消化できないまま残り続けていて、いつか漫画として描きたいと思っていました。

 本作を描いた当時は商業連載の企画がなかなか通らず「(商業は)難しいな」と思っていた時期でした。売れ筋などを一切考えずに、自分の中に残っていた思いを形にしてみようと考え、筆を執りました。

ーー印象に残っているシーンを教えてください。

飴野:みつこちゃんとメルちゃんの出会いは自分の体験を元にした、実際の出来事なんです。私はのんびり登校していて、遅刻することが多く……。ある日、いつものように遅刻していると、もじもじとしている転校生を見かけたんです。

 実は転校生がやってくることは知っていて「転校生の子と仲良くなれるな」と思い自分から話しかけました。その時の景色がものすごく綺麗な記憶として残っていて。そんなエピソードも相まって、2人の出会いは自分でも気に入っているシーンです。

ーー本作はこどもである2人の変化に加え、季節の移ろいが緻密に描かれている作品だと感じました。

飴野:こどもの目線から見る世界は綺麗だったという思いがあり、当時のことは高校や大学時代よりも鮮明に覚えています。近くにある大きな山とか、当時は広く思えた校庭など、目にしていた景色はすごく綺麗でした。終盤にみつこちゃんが祈るシーンの夜景は出身地の港の風景を参考にしながら描いています。

 冒頭には「私は面白い花を見つけたら立ち止まる」というみつこちゃんの独白がありますが、小学生のころの通学路にも大きな花壇のある家があって、その花々を見ることが好きでした。

ーー本作は「大人になること」が作品を象徴するキーワードの1つかと思います。

飴野:こどもは本能に忠実でいられる時期だと思います。「もっと遊びたい、家に帰りたくない」とか「お腹空いた」とか。ただ大人になると社会的な責任が生じて、思っていないことを言わなきゃいけなかったり、建前を使い分けたりすることが増えるかと思います。

 みつこちゃんはメルちゃんとの関係を通じて、自分がこどもでいられるのは周りの大人がこどもで在ることを許してくれているという、恵まれた土台があるからだと気づくことになります。私自身もたまたま運が良く、生まれた環境が恵まれていただけだと気づいたことがありました。

 個人の努力だけではどうしようもできない環境の不平等さを知ることが、私にとって「大人になる」という大きな転換点でした。

ーー本作は余白のあるワンシーンで物語の幕が下ろされました。

飴野:当初は「メルちゃんとの日々を思い出して、こんな漫画を描いているよ」といった、漫画を描く大人になったみつこちゃんの後ろ姿で終わる予定でした。ただ、みんなが漫画を描くわけではないですし、もっと普遍的な物語、過ぎ去ってしまったものとしての余韻を残したかったので今の形にしました。

 小学校のころはもちろん、中学や高校で出会った人の大半は大人まで関係が続くことがなく、時間とともに通り過ぎてしまう。ただ関係が長く続かなくても、1年や1ヶ月、1日や一言だけでも、大切な人との思い出や瞬間があったら、これから先の未来でも「よかった」と思えるはずです。

ーー七夕や小学校の卒業後など、本作ではたびたび「祈り」について描かれていました。

飴野:愛情の到達点は「祈り」になると思っています。親子や恋人同士など、お互いに永遠に生き続けることは不可能であり、いつかは独り立ちや死別などで離れてしまう。

 最初は大切な相手に対してごはんをごちそうしたりとか、お世話をしたりできると思いますが、相手が遠くへ行ってしまったら「今日もあの人が楽しく過ごせますように」と祈ることしかできないと思います。

 大切な相手のことを思いながら祈ることは、もしかしたら無意味なことかもしれません。けれど意味がないと思いながら、それでも祈ることに私はその人の愛情を感じ、尊さを覚えます。

ーー今後の目標を教えてください。

飴野:最近ちょうど商業媒体の連載会議で作品が通ったので、これからは商業連載を頑張っていきたいです。

 一方で、趣味としての同人活動も大切にしていきたいと考えています。商業作品として描くものとは異なり、自分の好きなものを出す場として年に数回は同人作品を発表できたら最高だと思っています。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる