都市伝説を巡る新感覚ホラー×ミステリー! 『アナヅラさま』著者・四島祐之介インタビュー


『アナヅラさま』は、ある地方都市で女性が相次いで行方不明になるなか、顔にぽっかり穴のあいたバケモノ「アナヅラさま」が、人を攫って穴の中に吞み込んでしまうという都市伝説が流布し、行方不明者の捜索依頼を受けた探偵・小鳥遊穂香(たかなし・ほのか)がその真相を解明しようと奮闘するホラー/ミステリーだ。
『このミステリーがすごい!』大賞の審査員を務める翻訳家・書評家の大森望が「“死体を穴に捨てる話”というのは珍しくないが、まさか穴の方に着目してこんな方向に転がすとは。サプライズを交えつつ、ミステリーとホラーの中間領域を大胆に開拓する。」と評した本作は、どのように創作されたのか。著者の四島祐之介氏に話を聞いた。
1990年代のオカルト番組からの影響

――『アナヅラさま』は、あらゆるものを飲み込んでしまう“穴”を利用する殺人者と、失踪者を追う私立探偵の様子を交互に描く話です。恐怖小説の要素とミステリー小説の要素、双方を兼ね備えた作品になっていますが、そもそも話の着想はどのように生まれたのでしょうか?
四島:仕事をしている最中に、オフィスの外の道路を廃品回収車が通り過ぎた時です。廃品回収車はよく「捨てたいものを承ります」というようなアナウンスをしながら道を走りますよね。その声を聞いた時に「例えば何でも飲み込んで処理してくれる大穴のようなものがあったならば、廃品回収業者も大儲けできるのではないだろうか?」と、ふと思ったんです。ちょうどミステリー小説を書いて新人賞にでも応募してみようか、と考えていた時でもあったので、そこから「何でも飲み込む大穴で色々なものを処理していく廃品回収業者の男が主人公」の物語を着想し、その男が大穴の秘密を知った同業他社の人間も始末していく、という具合に話を広げていきました。
――当初は犯罪小説の要素の方がより色濃く出ていたようですね。それが現在のような私立探偵も絡んでくる話になったのは何故でしょうか?
四島:先ほど申し上げたような設定で2万字くらいまで書いたのですが、途中で「犯罪者側の視点だけでは、あまり物語を盛り上げることが出来そうにないな」と感じたんです。そこで私立探偵を生業とするヒロインを登場させて、犯罪者の設定も廃品回収業者から「山奥にある大穴で死体処理を行う殺人犯」という風に変えてみました。それで書いていく内に、追う者と追われる者の図式がある小説になったんです。
――タイトルにある“アナヅラ様”とは作中に登場する架空の都市伝説です。2020年以降、日本の文芸シーンでは空前のホラーブームが起きていますが、そうした作品に盛り込まれる都市伝説や怪談といったものには元より関心はあったのでしょうか?
四島:もともと好きではありましたが、現在のホラー小説ブームからの影響というわけではないです。どちらかと言えば自分が子供の頃、1990年代にテレビで放送されていたようなオカルト番組からの影響の方が強いかな、と思います。あの頃のテレビって、それこそ夏の時期になると心霊番組やUFO特集が数多く放送されていた記憶があります。その時に抱いた関心が今でも残っていて、作品に自然と表れたのではと思います。ちなみに作中の序盤で「“アナヅラさま”に似た都市伝説は長野には多い」という様なことが書いてありますが、これは私の創作です(笑)。
ホラーとミステリーの間を行ったり来たりするような読み味に

――『アナヅラさま』はミステリーとしての企みに満ちた小説ですが、私立探偵小説の興趣で牽引していく部分も魅力的でした。主人公の一人である小鳥遊穂香が地道に事実を追っていく過程がしっかりと書き込まれているんですよね。この辺りの展開を書くにあたって参考にした作品などはありますでしょうか?
四島:そうですね……特に意識をしたわけではないのですが、主人公の私立探偵が調査をしていく部分はもしかしたら「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズの影響を受けているところはあるかもしれません。「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズというのは、「一般視聴者から投稿された心霊映像を紹介する」という体裁を取ったフェイクドキュメンタリーのオリジナルビデオ作品ですが、その中には映像制作スタッフが投稿作品の背景を探っていく展開が描かれることもあるんですね。しかも、そこには地方の都市伝説が絡んでくることもありまして、そういうところは無意識のうちに『アナヅラさま』にも反映されているかもしれません。
――どちらかといえば小説というより映像作品からの影響の方が強いのでしょうか?
四島:ミステリーの要素については映像作品だけではなく、ゲームからの影響もあると思います。例えば「SIREN」シリーズはホラーアドベンチャーゲームとして有名ですが、「舞台となる異界からどのように脱出するか」という謎解きミステリーの要素も備えているんですね。私はこの「SIREN」シリーズが好きだったので、そこからの影響は強いのかな、と。あとはアニメ化もされた『ひぐらしのなく頃に』でしょうか。いわゆるテキスト形式のコンピューターゲームでジャンルとしてはミステリーですが、土着的なホラーの要素もあった作品でした。
――こうしてゲーム作品からの影響を伺うと、『アナヅラさま』で四島さんがミステリと恐怖小説の要素を掛け合わせながら書いている理由が何となく納得できます。「この作品はどちらのジャンルに属するのだろうか?」と、2つのジャンルの間で常に振り子が揺れる感覚を味わいながら読んでいたので。
四島:先ほども申し上げたように現在のホラーブームを特に意識して書いたわけではないのですが、ホラーとミステリーの間を行ったり来たりするような読み味にしようという思いは強かったです。改稿作業では、両ジャンルの境界をより曖昧にするような修正を行いました。
ライトノベル執筆で培った“キャラクターの描き方”

――ジャンル小説としての側面を主に伺ってきましたが、登場人物の造形にも着目すべき点がある作品です。特に主人公の小鳥遊穂香は現代のジェンダー観を反映したキャラクターになっていて、犯罪者側の物語とのコントラストが明確に出ていたと思います。
四島:最初にお話ししましたが、小鳥遊穂香というキャラクターは物語の着想時にはいなかったんですね。途中から調査のパートを担う視点人物が必要になった時に登場させたのですが、その際に「対峙する謎が途方もないものだからこそ、あらゆる困難を跳ね除けて突き進んでいくタフさを持ったキャラクターにしたいな」と考えたんです。そこから人物造形を膨らませていく内に、過酷な生い立ちなどの設定が加わっていった形になります。先ほど映像作品からの影響が強いというお話をしましたが、私が好きな映画の1つに『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』という作品があります。
――スウェーデンの作家、故スティーグ・ラーソンのミステリー小説が原作ですね。
四島:はい。この作品にリスベット・サランデルというキャラクターが登場するのですが、小鳥遊穂香の造形はこのリスベットをイメージしたところはあると思います。
――登場人物でいえば小鳥遊穂香のキャラクターにどうしても目が行きがちではありますが、実はそれ以外にも調査パートでは魅力的なキャラクターが出てくる印象はありました。穂香の探偵事務所で事務をこなす「メイド長」こと早乙女理子なども、陰惨なトーンになりがちな物語の中にコメディタッチな部分も作り出す役割を負っていて、なかなか良いキャラクターだなと感じました。
四島:『アナヅラさま』を『このミステリーがすごい!』大賞に応募する前は、ライトノベルの新人賞にも投稿していたことがあるんです。もし小鳥遊穂香以外のキャラクターにも魅力を感じてもらえたのであれば、ライトノベルの賞に応募していた際に培ったキャラクターの描き方が役に立ったのかな、と思います。
――ミステリー小説の新人賞だけではなく、ライトノベルの賞にも応募していたんですね。
四島:そうですね。ライトノベルの新人賞に投稿した作品もミステリーの要素はあったのですが、いわゆる“日常の謎”と呼ばれるタイプのものを組み込んだ青春小説でした。デビュー作は陰惨なホラーの要素がある小説になりましたが、明るい青春小説のような作品にも興味はありますので、次作以降は様々な趣向を持った物語を生み出す事が出来れば良いなと思っています。
■書誌情報
『アナヅラさま』
著者:四島祐之介
価格:800円
発売日:2026年2月4日
出版社:宝島社























