復讐心だけでは、自分の心は救われないーー『陰陽師と天狗眼』に込められた、生きづらさを抱える人へのメッセージ

緻密に描かれる伝統芸能・神楽
由紀子と並ぶもう一人の一般人である広瀬も、これまで美郷のバックグラウンドや高校時代の事件を知らなかったという負い目に悩まされてきた。広瀬は由紀子同様、世間的に見れば恵まれた立場にあるが、そんな彼も悩みとは無縁ではいられない。相手を気遣うあまり一歩踏み込めなかった広瀬が、もう後悔したくないと美郷に向き合う姿を丁寧に描いたパートも本作の見どころだ。広瀬という、怜路とは異なるかたちで美郷をこの世界に繋ぎとめる存在がいるのはなんとも心強い。なお広瀬は蛇が苦手だが、美郷には元蟲毒で今や分身となったキュートな白ヘビの「白太さん」が棲みついている。広瀬が困惑しながら白太さんと少しずつ距離を縮めていく姿にも要注目だ。
本作の裏の主役ともいえる神楽についても触れておきたい。神楽とは神話や伝説を題材に舞う伝統芸能で、広島は全国で有数の神楽どころとして知られている。物語のキーとなる演目「櫛名田姫」をはじめ、作中には神楽に関連する要素がふんだんに登場する。作者の神楽愛が感じられる緻密な描写と、鬼女の面を捕らえるために仕掛けられた「櫛名田姫」の大舞台、そこで活躍する美郷と怜路の息のあったコンビは大きなカタルシスをもたらす。
鬼女の面を追う中で、美郷はかつて自分が巻き込まれた事件を思い出すことになる。人生はときに理不尽であり、辛い目に遭って怒りを覚えることもある。けれどもその怨みに囚われたまま歪んだ復讐心だけ育ててしまっては、自分の心は救われない。どんな立場にいてもそれぞれの辛さはあるし、万一「社会的なまっとうさ」から降りたとしても、そこで人生が終わるわけではない。そんなメッセージが込められたエピソードは、あやかしファンタジーやバディ小説好きのみならず、今いる世界を辛く感じている人や生きづらさを抱えている人の心にも響くだろう。
■応募者全員キャンペーン
前作『―クシナダ異聞・怨鬼の章―』、本作『―クシナダ異聞・女神の章―』各書籍の帯についている応募券を集めてもらえる「応募者全員キャンペーン」が実施中。

各巻の応募券1枚につき、その書籍の書影イラストを起用したクリアファイルがプレゼント。抽選でA3サイズのビジュアルボードが当たるWチャンス施策も用意されている。
応募期間: 2025年5月20日(火)~2025年7月31日(木)※当日消印有効
詳細は公式サイト(https://kotonohabunko.jp/special/onmyoji/campaign/volume5/)をチェックしよう。
■作品情報
『陰陽師と天狗眼 ―クシナダ異聞・女神の章―』
著者: 歌峰由子
装画:カズキヨネ
価格:847円(税込)
発売日:2025年5月20日
出版社:マイクロマガジン社

























