映えて美味しい、しかも安い! 「ことのは文庫」コラボカフェのフォトジェニックな輝き

「ことのは文庫」コラボカフェが映える

 心に響く物語に、きっと出逢える。ーーそんなコンセプトで良質な物語を届けてきた文芸レーベル「ことのは文庫」。創刊6周年を記念したコラボカフェが7月4日(金)まで、人気カフェレストラン「café de 武」(東京都中央区新富)で開催中だ。

 「コラボカフェ」といえば、“映える”メニュー。料理を眺め作中のシーンやキャラに想いを馳せ、限定特典もゲットしつつ、作品世界に浸るもの……という印象を持つ人も多いのではないか。もちろん、ことのは文庫の6周年コラボカフェも見栄えバッチリのメニューと、作品をモチーフにした美麗なランチョンマット(なんとブックカバーにもなる)という限定特典が用意されているが、実際に足を運んで驚いたのは、味のよさだ。割高感もまったくなく、作品を知らない人が注文しても大満足に違いない。それが作品のファンとなればなおさらだ。

 筆者が楽しみにしていたのは、『極彩色の食卓』シリーズ(みお)より、料理上手の美大生・燕が、生活能力ゼロの元天才女流画家・律子のために作った「これからのフレンチトースト」(税込1000円)。フレンチトーストは1巻の第1話に登場し、燕が有り合わせの食材で律子を唸らせた逸品だ。「サッと作った」という気軽さがありながら、柔らかで風味がよく、律子が気に入った「甘くない」=おかず系の食べ応えも原作通り。タイトルの由来と、「ハム&チーズ」が加わってグレードアップしている理由は、ぜひ6月20日に刊行された最終3巻を読んで確かめてほしい。

「これからのフレンチトースト」(税込1000円)。別添えのメープルシロップをかけることで甘じょっぱく味変も可能だ。

 このフレンチトーストと合わせてみたのは、「大奥の御幽筆」シリーズ(菊川あすか)より、2巻『永遠に願う恋桜』の書影をモチーフにした「咲き誇る恋桜フロート」(税込800円)。満開の桜と晴れ渡る空を思わせる美しいビジュアルで、甘さは控えめ。ベースはさくら味の甘やかなソーダ&アイスだが、ほんのりとした苦味が爽やかなトニックウォーターと、桜の塩漬けが味を引き締めており、全体として大人の味わいになっている。

「咲き誇る恋桜フロート」(税込800円)。淡い2色が目にも美味しい。

 その他のドリンク類も出色の出来で、『劇団拝ミ座 未練のひと時と異能の欠けた青年』(森原すみれ)をモチーフにした「和泉大絶賛!和モダンラテ」(税込850円)はファンタジックに人の人生と向き合う「劇団拝ミ座」らしく、モダンなほうじ茶ラテにエスプレッソの苦味が利いた、何度でも飲みたくなる一杯。

 さらに、『カナシミ水族館 心が泣き止む贈り物』(夕瀬ひすい)の書影を思わせる「深海のカナシミフロート」(税込850円)は深いグラデーションが美しく、レモンシロップを入れることでラムネ風味のソーダが紫色になっていくという“表情の変化”がドラマチックだ。ドリンクの賞味期限はそもそも短いものだが、氷の純度が高く、すぐに薄まってしまわないのも「読書」との相性がいい。

「深海のカナシミフロート」(税込850円)。青から蒼へのグラデーションが美しい。

 ドリンクで最も驚かされたのは、『陰陽師と天狗眼』シリーズ(歌峰由子)より、「美郷と怜路のペアドリンク」(税込各830円/セットで同1600円)だ。美貌の陰陽師・美郷をイメージしたダークなクリームソーダはレモンシャーベットがキリリと利いている。

 チンピラでお人好しの拝み屋・怜路をイメージした抹茶ラテは、抹茶の渋みや旨みまで活かされた逸品で、波瀾万丈な人生の深みを想像させる。ガムシロップで少しずつ甘みを足していけば、人との出会いで過去を埋めていく怜路の物語が追体験できそうだ。

「美郷と怜路のペアドリンク」(税込各830円/セットで同1600円)。美郷と怜路、並び立つ二人が見えてくるだろう。

 そして、がっつり食事がしたい人におすすめしたいのが、料理を軸にした短編集『ある日どこかで箸休め 3分で読める35話のアラカルト』(村田天)より「ある日どこかのハンバーグプレート」(税込1500円)だ。

 ネタバレは控えるが、夫が女性と一緒にいる姿を目撃した妻が、嫉妬の気持ちを発散するために作ったハンバーグがモチーフになっている。玉ねぎのシャキシャキとした食感と、肉感の強い粗挽きのハンバーグにチーズ&トマトソースがよく合う逸品で、夫婦仲の心配も吹き飛ぶおいしさ。生クリーム入りで甘味のあるマッシュポテト、さっぱりとしたラペにほろ苦く新鮮なサラダと、副菜にも手抜かりがなく、この一皿に特典がついて1500円は良心的だ。常設メニューにしてほしい。

 と、お世辞抜きにクオリティが高い各メニュー。それもそのはず、「café de 武」は「ことのは文庫」を刊行するマイクロマガジン社が属する、グループ会社により経営されているカフェで、移転前の原宿時代から、同社の編集者だけでなく作家や近隣のビジネスパーソンにも愛されてきた名店なのだ。作品への解像度が高いプロのシェフが開発したメニューなのだから、コラボカフェに期待する水準を大きく超えてくるのも頷ける。

 各作品のファンは確実に訪れてほしい……というのはもちろん、文学の香りを感じながらゆったりとしたひと時を過ごしたい人にも、美しいドリンクで非日常を味わいたい人にも、お腹が空いた学生やビジネスパーソンにも、誰にでもおすすめできるコラボカフェだ。まだどの作品にも触れたことがない人は、メニューから逆算して、気になった作品を読んでみてはいかがだろう。

「ある日どこかのハンバーグプレート」(税込1500円)。ランチョンマットを眺めながら食べることで、さらに幸せな気分に浸れるだろう。


■店舗情報
café de 武

住所:東京都中央区新富1-3-7 ヨドコウビル B1
営業時間:月〜金 9:30〜20:00
     土、日、祝 定休日
https://www.instagram.com/cafe_de_take2/

※店舗情報は2025年6月時点の情報です。

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