「ハヤカワ新書」一ノ瀬翔太編集長インタビュー 「読む前とは世界が違って見えるレンズのような本が作れたら」

「ハヤカワ新書」編集長インタビュー

電子書籍をNFT化して紙の本とセット売りするのは業界初

――「ハヤカワ新書」は紙の書籍の通常版とともに、プラス400円の価格設定で世界で初めて「NFT電子書籍付」版も販売しますが、これはどういうものですか。

一ノ瀬:本に同梱しているカードに記載されたQRコードからNFT電子書籍を取得いただくと、アプリ上で本編と同じ内容、ないしはプラスαを読めるというものです。例えば、雑誌のNFTデジタル特典付録でグラビアアイドルの限定写真が手に入るといったことは以前から行われていたんですが、電子書籍をNFT(偽造不可なデジタルデータ)化して紙の本とセット売りするのは業界初です。メディアドゥさんから「NFTで電子書籍がつけられるようになった」と聞いて、ぜひやってみようとなりました。テキストだけではなくて動画や音声も特典としてつけられたり、NFTなので譲渡や売買もすることができます。

――メディア環境の変化でインターネットの活用は避けて通れませんが、とり組んでいることは。

一ノ瀬:中公新書さんや岩波新書さんなど、みなさんSNSの使い方がうまいですよね。当社の公式ツイッターも早川書房のファンの方がフォローしてくださっているので、そこで『名作ミステリで学ぶ英文読解』の情報を出したりするとやっぱり反応がいいんです。最近ではオンラインイベントを社内のスペースを使って自前で行うこともあって、機材やノウハウが蓄積されてきたので活用していけると思います。あとは、noteで各作品の担当編集者インタビューを公開したりもしています。ただ、一方でインターネットに頼りすぎない方がいいとも考えています。我々もこれまでのフィールドとは違う場所へ出ていくわけなので、リアルイベントなどを通じて新しい読者に出会っていくことも必要かなと思います。

――今後はどれくらいのペースで刊行するんですか。

一ノ瀬:6月創刊で5冊、7月は4冊、8月は3冊、以後は隔月刊で3冊ずつくらいを予定しています。

――昔なら雑誌の特集でやっていたことを今は新書でやっているともいわれますが、時事ネタをどこまでとりこんでいくのか。

一ノ瀬:7月に『ChatGPTの頭の中』という翻訳ものを出すんですよ。スティーヴン・ウルフラムという理論物理学者が、ChatGPTの内部で何が起きているかを解説した本です。原書は100頁くらいで薄かったので、1カ月くらいで訳してもらって新書で出すことにしました。また、テーマによっては、鮮度の高い情報をわかりやすい形で届けるため、語り下ろしの方がいい場合もあるでしょう。

――創刊ラインナップでも『現実とは?』は対談集ですものね。新書で近年のヒット作というと中公新書の『荘園』(伊藤俊一)など日本史ものがありましたが、「ハヤカワ新書」で歴史ものはどうですか。

一ノ瀬:7月刊の塩崎省吾さんの『ソース焼きそばの謎』は、ソース焼きそばのルーツを探るうえで日本の近現代史が大きく関わる内容なんです。王道の歴史ものというより、ちょっとひねりがある方が「ハヤカワ新書」らしいカラーが出る気がします。10月には翻訳もので『The Shortest History of the War』という、約75万年前に発生したホモ・エレクトス同士の戦争から現在のウクライナ戦争まで、その名の通り「ヒト」の戦争の歴史をコンパクトに学べる本も新書で刊行予定です。

 「ハヤカワ新書」を読み、早川書房の単行本や文庫にまで手を伸ばしていただければ一番うれしいですね。「未知への扉をひらく」というコンセプトには、そういうニュアンスもこめているんです。『馴染み知らずの物語』で滝沢カレンさんが考えた「わたしを離さないで」を読んだ人がカズオ・イシグロの原作を手に取るとか、『名作ミステリで学ぶ英文読解』の読者がエラリー・クイーンの原典をあたるとか。翻訳ものってどうしても一般的にハードルが高めなイメージがありますけど、「ハヤカワ新書」がその橋渡しをできるようなものになるといいと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「名物編集者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる