『24人のビリー・ミリガン』『クララとお日さま』『三体』……早川書房、戦後の翻訳文化への貢献

早川書房、翻訳文化への貢献

 早川書房の早川浩社長が、6月19日に世界最大級の書籍見本市「ロンドンブックフェア」にて、世界の出版界に重要な功績を残した編集者らを表彰する「国際生涯功労賞」を受賞し、記念の盾が贈られた。

ハヤカワ・ポケット・ミステリの第一弾作品であるミッキー・スピレイン『大いなる殺人』(1953年)

 早川書房は、1945年に早川清が創業。SFやミステリを中心とした海外文学に強い出版社として知られ、近年ではノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『クララとお日さま』や、世界的ベストセラーとなった劉慈欣の『三体』の刊行でも注目を集めた。2023年6月には新書レーベル「ハヤカワ新書」を創刊するなど、新たな試みも行っている。

 文芸評論家の杉江松恋氏に、SF/ミステリファンにとってお馴染みの出版社である早川書房の翻訳文化への功績について、改めて話を聞いた。

「早川書房は、戦後の翻訳文化を主導した出版社のひとつです。江戸川乱歩らが監修し、1953年に創刊した『ハヤカワ・ミステリ』(通称:ポケミス)は、日本に翻訳小説の文化を根付かせる上で、非常に大きな意義がありました。文庫版の『ハヤカワ・ミステリ文庫』は今なお書店の棚にまとまっているので、多くの読者にとって手に取りやすいものになっていると思います。また、アメリカの月刊ミステリ小説誌の日本版として1956年に創刊した雑誌『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』(現:『ミステリマガジン』)は、海外の最先端のミステリを定期的に日本の読者に届けるとともに、短編小説の文化を根付かせる上でも大きな役割を果たしました」

多重人格という症例を世に伝えた『24人のビリー・ミリガン』(1994年)

 SF/ミステリのみならず、海外の現代文学も幅広く紹介してきた。

「生粋のSF/ミステリマニアだけではなく、幅広い視野を持った編集者を採用しているため、ビジネス系や現代思想などの翻訳書も充実しています。たとえばノンフィクションでは、1994年に日本でも大ベストセラーとなったダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン』を刊行しています。ダニエル・キイスに関しては、『アルジャーノンに花束を』や『五番目のサリー』なども刊行しており、1999年には『第12回 ハヤカワ国際フォーラム』に招聘するなど、海外作家が訪日するきっかけも作りました。私自身もエド・マクベインのサイン会に行ったことがあります。他にもディック・フランシスやトニ・モリスンといった作家を、日本でもメジャーな存在にしたことも早川書房の大きな功績です」

 早川書房は、他にもさまざまな形で翻訳文化を支えているという。

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