『葬送のフリーレン』マンガ大賞受賞のポイントは? 勇者パーティーの”その後”の物語が心に刺さるワケ
小倉氏によれば、山田鐘人が描いた当初のネームでは、ギャグの読み切りだったという『葬送のフリーレン』だが、アベツカサも入れて練り直した企画を提出し、1話、2話と原稿があがっていく中で「とても素敵な作品になるんじゃないかという気持ちが強く持てるようになった」と語る。雑誌への掲載とは別に、ネットでも第1話と第2話が無料で読めるようになって、そこに描かれた過去にあまり類のない勇者パーティーの”その後”の物語に驚く人、笑いながらも切なさを感じる人が続出し、口コミで一気に人気が広がった。
『葬送のフリーレン』は、読み始めれば掴みの部分で”その後”の物語というシチュエーションと、笑いを誘うキャラクターたちの言動に誘いこまれ、つい続きを読んでしまう。そこでは、「表面的には人の死を描いています。死は身近に誰でもあること。そこを丁寧に描いています。それをさらに掘り下げたところに、作品の前向きさとか肯定感があります」と小倉氏がいうように、心に刺さるテーマがあって離れられなくなる。急激に支持が集まった理由がそこにありそうだ。
2020年4月28日発売の雑誌で連載がスタートし、8月に単行本の第1巻、10月に第2巻、12月に第3巻と始まってまだ間もない作品でありながら、『葬送のフリーレン』がしっかりと読者に届いたのは、ネットでの露出が奏を功した恰好だろう。今回は「少年ジャンプ+」で連載の松本直也『怪獣8号』が6位、同じく「少年ジャンプ+」連載の遠藤達哉『SPY×FAMILY』が10位など、ウェブ連載作品またはウェブでも読める作品が多くノミネートされた。SNSなどの口コミで作品の面白さが広まる状況を表していると言える。
今回は『葬送のフリーレン』以外にも2人で描かれた作品が入った。5位の『【推しの子】』だ。原作の赤坂アカは、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』がアニメ化や実写化もされた人気漫画家だが、『【推しの子】』では『クズの本懐』の横槍メンゴに作画を任せている。少年も少女も愛らしさを感じさせるキャラクターの造形は作画担当者ならではといったところ。『葬送のフリーレン』も含めて、漫画家同士であってもお話作りやキャラクター作り、作画といった分野で適材適所を求める動きが増えるかもしれない。
異例といえば、和山やまの2作品同時ノミネートも異例だった。『カラオケ行こ!』と『女の園の星』は、それぞれ3位と7位に入って人気ぶりを見せた。マンガ大賞2020でも『夢中さ、きみに。』が50ポイントを獲得して7位に入っただけに、出す作品のことごとくがノミネートされ、『かくかくしかじか』でマンガ大賞2015の大賞を獲得した東村アキコのような道を歩む可能性もありそうだ。
マンガ大賞2021投票結果
大賞『葬送のフリーレン』山田鐘人、アベツカサ91ポイント
2位『チ。―地球の運動について―』魚豊 67ポイント
3位『カラオケ行こ!』 和山やま 64ポイント
4位『水は海に向かって流れる』 田島列島 60ポイント
5位『【推しの子】』 赤坂アカ・横槍メンゴ 59ポイント
6位『怪獣8号』 松本直也 58ポイント
7位『女の園の星』 和山やま 57ポイント
8位『メタモルフォーゼの縁側』 鶴谷香央理 48ポイント
9位『九龍ジェネリックロマンス』 眉月じゅん 46ポイント
10位『SPY×FAMILY』 遠藤達哉 38ポイント
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インタビュー
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レビュー
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■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。