『ぼっち・ざ・ろっく』や『BanG Dream!』に続く名作に!? 新たなギターヒーロー誕生『神懸かれ、キラーチューン。』

『ぼざろ』や『BanG Dream!』に続く名作?

 『ぼっち・ざ・ろっく』に『BanG Dream!』に『ガールズバンドクライ』に『ロックは淑女の嗜みでして』と、大はやりのガールズバンドものに、ライトノベルから参戦したのが岬鷺宮の『神懸かれ、キラーチューン。』(電撃文庫)だ。決して上手いとは言えない主人公が、カリスマ的な人気を誇る音楽ユニットのギタリスト募集に挑むという、無謀にして無限の可能性を感じさせる物語が綴られている。

 新時代のギターヒーローの登場だ。その名は水巻長閑。『不可思議恋乃』という少女1人の音楽ユニット「FUKASHIGI」が行っていた、女性ミュージシャンだけで構成するバックバンドのギタリスト公募に参加。100人の二次選考参加者で100番という最底辺から、ギターの腕と音楽的な才能で下剋上を決めていく。

 そう聞くと、転生チートに等しい秘められた力が爆発し、並み居る凄腕ギタリストたちをなぎ倒していく物語のように思える。そういう要素も確かにあるが、作中に登場したばかりの時の長閑は、100人を5人ずつに分けて競い合う二次選考の組み分けが決まった段階で、「……終わった~……わたしのオーディション、終わった~……」とへたり込むくらいダメダメな候補者だった。

 何しろ、同じ組にいたのが日本のポピュラーミュージックを牽引している新仏乙音。誰もが知るスターが、どこか停滞している状況を打開しようと、新進ながら注目していた「FUKASHIGI」のオーディションに応募した。どこにも負ける要素はないし、長閑が勝てる要素もまるでない。

 実際、始まったオーディションで乙音は1番に弾いて場の空気を支配した。続く参加者は動揺の中でボロボロの演奏をして脱落していった。ところが、最後に登場した長閑の演奏が空気を塗り替えた。結果、長閑は参加者中トップの知名度と実力を誇る乙音を退け、グループの代表として次の審査へと勝ち上がる番狂わせを演じた。

 やはり長閑が秘められていた才能を表に出して乙音の演奏を圧倒したのか? そうではないらしい。テクニックなら乙音や他の参加者の方が上だった。けれども長閑は、演奏を合わせることになっている恋乃によるデモ音源が、乙音や他の参加者が奏でたフレーズではなく、「とあるフレーズ」を求めていると考えた。思いついたフレーズを奏で、それが乙音の耳を打ち、審査員の気持ちも動かし合格者に選ばれた。

 単純に音楽の才能を発掘するためのオーディションだったなら、抜群のテクニックとセンスを誇る乙音は合格しただろう。けれども、これは不可思議恋乃のバックで奏でられるギターの音を求めるオーディションだ。自分の才能を見せるだけ、テクニックを披露するだけでは通らない。だから乙音は落選し、恋乃が求めるフレーズを探った長閑が選ばれた。

 長閑にアドバンテージがあったとしたら、中学時代に恋乃といっしょに音楽活動をしていたということだ。知り合いだから友達枠で選ばれたということではない。一緒に活動する中で、恋乃が欲しがる音というものをそれとなく掴んでいて、どうにか演奏することができた。

 もっとも、他の組で同じようなことをした参加者がいない以上、長閑の演奏がベストだとは限らない。主人公だからという安心感はあるものの、予期していない展開も考慮して、ヒリヒリとした緊張感の中で進んでいくオーディションの模様を、ジリジリとした気持ちで見守ることができる。

 その場面では、プロも少なくない参加者たちが、どのような思いでオーディションに参加し、どのような意図で演奏していたかが綴られていて、ミュージシャンたちが音楽にどのような姿勢で臨んでいるかを感じ取れる。自分で演奏をしない人でも、ミュージシャンたちの姿勢を通して音楽の深さを知ることができる作品だ。

 最強の相手を退けて三次審査に進んだ長閑だったが、そこでバックバンドのメンバーといっしょに弾いて、演奏力を見せるという苦難に直面する。長閑はギターが下手だった。Fのコードすら押さえられないその腕に、バンマスも「……ちょっと、さすがに話にならないかな」とこぼしたほどだった。

 もっとも、ここで長閑が脱落してはストーリーが続かない。あの乙音を退けた謎のギタリストに興味を持った人気バンド『月への12秒』で活躍している雛芥子令や、「ヤマダ軽工業」というバンドをやっている山田のえるが、同じ三次試験進出者として長閑を呼び出し、一緒に食事しながら女子トークならぬ音楽トークに花を咲かせる。そこで長閑の“弱点”を聞いた令が、3人で合宿しようと誘う。

 戦争なら敵に弾薬を送るような行為でも、ミュージシャンとして素晴らしい音楽に触れたい、長閑の持つ“何か”をもっと知りたいという好奇心には逆らえないのかもしれない。誰かを蹴落としてでも自分が栄光をつかみ取ろうとしないのは非現実的だと言われそうだが、そうした声を封じるくらいの可能性が長閑にはあったとも言える。令やのえるにもっと見たい、聞きたいと思わせた長閑の才能を、読者も見たいと思ってページを繰り続けることになる。

 音楽に関する具体的なアドバイスも参考になる。オーディションでは演奏力は必要だが、それをしっかりと『理解(わか)らせ』るために、ミスは最小限に抑えなければならない。指の力が弱くてFのようなバレーコードが弾けない場合は、裏技を使ってしっかりとバレーコードの音が出せるようにすればいい。

 のえるのように、三次試験でギターだけでなくピアノも弾いてメンバーを驚かせる奇策も時には有効だ。そうした手練手管を長閑は合宿で吸収し、見事に三次試験を突破して次の試験に進める9人に名を連ねる。こうなると、次はどのような課題が出て、それに長閑や他の参加者たちがどう挑むかが気になってくる。

 四次審査。令はボーカルを損なわない範囲でギターの音を強く聞かせ、のえるは自分で歌を歌うという反則に出る。そして長閑は、ここでも『曲が本当に必要としている音』を探り出して弾き、バンドメンバーも驚く恋乃の反応を引きずり出す。

 それぞれに違ったアプローチのどれもが、音楽を奏でることの奥深さを感じさせる。オーディションに合格するためのマニュアルを超えた、音楽を突き詰めようとするミュージシャンの魂が感じられる展開だ。

 それでも残酷に選考は行われ、次の審査に6人だけが残り、さらに次の審査で2人だけが残って、「FUKASHIGI」の日本武道館ライブで実際にステージに上がって演奏するという、とんでもないシチュエーションでの選考に臨むことになる。『神懸かれ、キラーチューン2』で描かれるそうしたオーディションで、長閑の演奏がどのようなものだったのかは作品を読んでのお楽しみ。長閑がオーディションを通じてたどり着いた思いから起こる大どんでん返しも待っていて、その先にどのような事態が起こるのかと興味をそそられる。

 そうした展開から浮かび上がって来たミュージシャンでありギタリストとしての長閑の魅力は、圧倒的な演奏力を持ちながら人前でそれを出せずにいる『ぼっち・ざ・ろっく』の後藤ひとりとも、音に情熱を乗せて響かせる『ロックは淑女の嗜みでして』の鈴ノ宮りりさとも違っている。奔放なところは「MyGO!!!!!」(「BanG Dream!」シリーズ)の要楽奈に似ているが、自身が求める音楽がある分、ただのバンドメンバーには収まらないところがある。その意味で、傑作揃いのガールズバンドものとはまた違った読み味であり、ギタリスト像を感じさせてくれる作品だ。

 何しろDanelectro 59M NOS+という珍しいギターのそれも左利きのものを、右利きで弾くという突き抜けた長閑の演奏スタイルが、すでに唯一無二だ。もしもアニメ化された時、その音を誰がどう再現するかが今から気になって仕方ない。

◾️書誌情報
『神懸かれ、キラーチューン。』1-2巻
著者:岬鷺宮
イラスト:美和野らぐ
価格:880円(1巻)、924円(2巻)
発売日:2026年6月10日(1巻)、2026年7月10日(2巻)
出版社:KADOKAWA(電撃文庫)


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