大橋裕之 × 吉田靖直(トリプルファイヤー) 特別対談:等身大の才能と低カロリーな情熱

大橋裕之 × 吉田靖直 特別対談

 マンガ家・大橋裕之と、トリプルファイヤーのボーカル・吉田靖直。「マンガ」「音楽」と表現のジャンルは違えど、ともにシーンの中では「異才」と言われる存在。大喜利イベントへの出演も多く、その表現活動に「笑い」のセンスを感じる部分も共通点だ。そんな2人が『ゾッキC 大橋裕之作品集』(カンゼン)、『持ってこなかった男』(双葉社)と新著を発表。

 『ゾッキC』は商業誌デビュー作も含む、大橋裕之の作品集だ。なお同シリーズの『ゾッキA』『ゾッキB』を原作とした映画『ゾッキ』も、4月2日(金)に全国公開を予定している。

 一方の『持ってこなかった男』は吉田靖直の初の著書にして、バンド活動初期までの人生を綴った自伝的作品だ。

 今回の記事ではそんな2人の対談が実現。活動初期の苦闘と「振り返りたくない過去」を振り返りながら、互いの作品・創作活動について語り合い、「『手のなる方へ』的な歌詞」「アロンアルファで指をつけられた」「ケツ毛を燃やしたくなる何か」など、大喜利の回答さながらのキラーフレーズが飛び出す内容となった。(古澤誠一郎)【インタビューの最後にプレゼント企画あり】

「渋谷の会議室で大喜利の練習をしたこともあった」(大橋)

大橋裕之
――お二人は大喜利イベントで共演したり、音楽関係者に共通の知り合いがいたりと、以前から親交があったんですよね。

大橋:僕の記憶だと、最初に喋ったのは大森靖子さんの大喜利イベントですね。あと吉田くんに呼ばれて、何の集まりなのか分からないまま大喜利の練習をしたこともあった(笑)。『ダイナマイト関西』(吉本興業主催のお笑いイベント)の前かな。

吉田:ああ、いきなり出場するのが怖かったので、僕の周りの強そうな人に「練習に付き合ってくれませんか」って声をかけたんだと思います。

大橋:一緒に大喜利的なイベントに出ることは何度かあったけど、だいたい吉田くんが優勝で僕は準優勝なんですよ。吉田くんは持ってくる言葉の選び方も凄いけど、文章を最適な長さに調整しつつ、決して説明しすぎず、それでいてニュアンスが伝わるような回答を出してくる。毎回「すごいな」と思ってます。トリプルファイヤーの歌詞もやっぱりすごいし、最初に聞いて衝撃を受けた「富士山」とか、「トラックに轢かれた」「次やったら殴る」とか、好きな曲を挙げたらキリがないですね。

トリプルファイヤー「トラックに轢かれた」

「大橋さんのマンガは“因果すぎない距離感”がいい」(吉田)

吉田靖直
――吉田さんは大橋さんのマンガはいつ頃から読んでいたんですか?

吉田:最初に読んだのは『シティライツ』で、誰かにもらったか、道端で買ったのかな。前から気になっていた作品だったんですけど、読んでみたらメチャクチャ面白くて。鳥居くん(トリプルファイヤーのギターの鳥居真道)とか友達に見せても「メッチャ面白い」という反応だったので、やっぱり面白いんだなと。

――特にどんな部分が面白いと感じたのでしょうか。

吉田:今まで読んできたマンガとは、読み終わったときの感覚が違ったんですよね。『ゾッキC』の九龍ジョーさんの解説(「願いは叶わないが、なにかが実現している」)とも重なるんですけど、大橋さんのマンガの物語は、最初に主人公が目指した方向とは違うところに着地することが多くて、でも「まあいいか」という感じがある。めっちゃ悲劇とかめっちゃ喜劇とかじゃなくて、悲しいことの間に間抜けな事実が挟まってたり、変な部分で躓いたりするのが、ホント(現実の出来事って)そうだよなって感じます。『ゾッキC』の最初の話の「シーン1」とか、何かいいですよね。

「シーン1」『ゾッキC 大橋裕之作品集』(カンゼン)

――一言では説明できない良さがありますよね。

吉田:そうですね。子供がホームセンターの自動ドアを開けている場面があり、ホームセンターの中では昔付き合ってた感じの男女がいて、それぞれの出来事が関係あるようで関係ないというか、因果すぎない距離感がいいというか。物語に「この伏線があるから次はこうなるだろう」みたいな圧迫感がなくて、そこが優しく感じます。

――人が「このマンガ面白いよ」と言うときの「面白さ」は、普通は「物語の展開の面白さ」を指すことが多いですが、大橋さんのマンガの物語には、そうやって「面白い」と言われる作品とは違う面白さを感じます。こういう物語は意識して作っているんでしょうか。

大橋:僕は「こういう場面を見せたい」というワンシーンからスタートしてマンガを作ることが多いので、結果的にそうなるのかもしれないです。あと、基本的にひねくれてるし、そもそもしっかりしたストーリーを作れないのも関係していると思います。

――なるほど。先ほど話に出た「シーン1」の女の子が自動ドアを開けるシーンも、物語の筋書き上では必須のシーンではないですよね。「シーン1」も、この場面を描きたいがために作った話だったのでしょうか?

大橋:そうですね。実際にこの光景を見たことがあったんですよ。たしか地元のホームセンターで、女の子じゃなく男の子でしたけど、ドアの前にこういうポーズで立っていて、「ドアを開けたつもりなのかな」と。そのとき「これは何かのネタに使えるな」と思って、それと「ホームセンターのにおいが嫌で」みたいな他で聞いた話と結びつけた――みたいな感じですね。

――面白いストーリーの作り方ですね。

吉田:僕は「このシーンから話を作りたい」みたいな映像的な歌詞の書き方はできないというか、してこなかったので、それができたらメチャクチャ楽しそうだなと思います。あと『ゾッキC』では「スーパーロンリー相田くん」も好きです。スーパーの警備員の主人公が、お店で「氷室」という偽名を使ってたら、パートのおばちゃんに「ヒムロック」って呼ばれちゃう感じとか。

「スーパーロンリー 相田くん」『ゾッキC 大橋裕之作品集』(カンゼン)

 あと、この主人公は良いヤツじゃないですけど、別に悪いヤツと言い切れるわけでもないし、自分が意図しない形で人に好かれたりする。物語でも、悲劇が起こってもそれが特に解決しないし、でも何かいいことが起こって終わる。その感じがいいです。

――大橋さんのマンガも吉田さんが描く歌詞も、主人公が「よし、やるぞ!」「俺は変わるぞ!」と立ち上がるものの、それが上手くいかなかったり、話が変な方向に進んだりすることが多いですよね。そこがお二人の作風の共通点なのかなと。

大橋:それは似ているかもしれないです。

吉田:そうですね。自分がやりたいことと重なるものを感じたから、読んだときにグッときたのはあると思います。

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