『葬送のフリーレン』魔王を倒した後の世界、不老長寿の魔法使いが抱いた思いとは?

『葬送のフリーレン』魔王を倒した後の世界、不老長寿の魔法使いが抱いた思いとは?
『葬送のフリーレン』が表紙&巻頭カラーを飾った『週刊少年サンデー』35号

 『響~小説家になる方法~』の柳本光晴が、将棋界を舞台にした『龍と苺』で鮎喰響に負けない天才少女の暴れっぷりを描き、『うる星やつら』や『境界のRINNE』の高橋留美子が、『犬夜叉』を思わせる伝奇バトル『MAO』で一段と冴え渡る創作力を見せている『週刊少年サンデー』。そこで、長い年月を生き続けるエルフの魔法使いを主人公にして、じわじわと人気を広げている漫画がある。

 『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』の山田鐘人が原作に回り、第82回小学館新人コミック大賞で「MEET UP」が少年部門の佳作となったアベツカサが作画を手がける『葬送のフリーレン』だ。

 八百比丘尼という伝説がある。人魚の肉を食べた女性が不老不死の身となって、それからは何度結婚しても夫は年を取って死んでしまう。女性は出家して尼となり、全国を旅して回り800歳になって姿を見せなくなる。高橋留美子にはこの伝説を元にした漫画『人魚シリーズ』があって、人魚の肉を食べて不老不死となってしまった女と男が出会い、長い時間を旅する中で永遠の時を生き続ける苦悩や、そうした苦悩を知らず不老長寿を願ってやまない人間の愚かさを描いている。

 長い時間を生きるということは、離別の苦悩をもたらすもの。そうした感覚を抱いたまま『葬送のフリーレン』を手に取ると、少し肩すかしを食らった気分になる。勇者と戦士と僧侶と魔法使いのパーティーが、10年の冒険を経て魔王を倒し、王都へと凱旋する。一行は讃えられ、王によって広場に彫像も建てられる。よくある勇者たちが世界の破滅に立ち向かう物語なら、これで終わりとなる場面から『葬送のフリーレン』は幕が開く。

 始まるのは“その後”の物語。ドワーフの戦士アイゼンが「…終わってしまったな」とつぶやき、人間の勇者ヒンメルも「そうだね。僕達の冒険はこれで終わりだ」と言ってしばし冒険での愉快な想い出を語り合った後、4人は次の人生を歩み始める。そんな別れの場で、50年に1度降り注ぐ半世紀流星をみながらエルフの魔法使いフリーレンは、「50年後。もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」とさらりと言う。

 見かけは誰よりも幼い少女姿のフリーレンだが、勇者のヒンメルも僧侶のハイターも知らない昔から生きていたらしい。「50年も100年も彼女にとっては些細なものかもしれないね」というヒンメルの言葉どおり、世界を旅して魔法の収集を続けたフリーレンが、王都へと戻って再会したヒンメルは背も縮み、頭もはげ上がった老人になっていた。

 「老いぼれてる」。ヒンメルに向かってそう言放つフリーレンの言葉には、見て驚いた程度のニュアンスしかなく、エルフと違って早く年を取り、死んでしまう人間への慈しみや、仲間だったヒンメルに置いていかれる寂しさのようなものはない。加えてフリーレンは、老いて貫禄が出たハイターや、こちらは見た目変わらないアイゼンを連れ、1週間は歩いた先にあるという半世紀流星のよく見える場所へと連れて行く。敬老精神のかけらもない。

 そんなフリーレンのドライな言動に憤ることなく、受け入れてついていくヒンメルたちにとって、50年前と同じ時を生きているようなフリーレンは、楽しかった想い出に再会させてくれる存在だった様子。生に限りのある人間が、不老長寿に固執するような醜さはない。定められた時を生きる人間たちが、それぞれの人生に対する感謝する意識が感じられる。読んで自分もそう生きられればと思わせる。

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