『怪獣8号』が“乗っている”理由 おじさんの再チャレンジが熱い

『怪獣8号』が“乗っている”理由

 松本直也が「ジャンプ+」で連載している人気漫画『怪獣8号』(集英社)の第1巻が発売された。本作は、怪獣の発生率が世界でも指折りの「怪獣大国 日本」を舞台に、怪獣と戦う防衛隊の活躍を描いた物語だ。

 主人公の日比野カフカは、怪獣専門清掃業者「モンスタースイーパー(株)」で働く32歳。物語冒頭、日本防衛隊第3部隊の隊長・亜白ミナが巨大怪獣を討伐した後、カフカたち清掃業者が巨大怪獣の死骸を解体する姿が描かれる。

 「拍手や感謝の言葉とは無縁な」「日の当たらない怪獣との戦いである」と語られる清掃業者の仕事を最初に見せることで、荒唐無稽な「怪獣」という題材に、生々しい手触りを本作は与えている。

 カフカとミナは幼馴染。幼い時に怪獣に家を潰された2人は「怪獣を絶滅させよう」と共に誓い合う。その後、ミナは防衛隊に入り、27歳の若さで隊長となるが、カフカは入隊試験に合格できず、入隊可能な年齢を超えてしまい、防衛隊に入ることは諦めていた。しかし、防衛隊を目指す18歳の少年・市川レノから防衛隊の募集年齢が「33歳未満」に引き下げられたと聞いたカフカは、レノといっしょに防衛隊の入隊試験に挑戦する。

 清掃会社にアルバイトとして入ったレノとカフカが打ち解けた刹那、巨大怪獣が2人を襲う。絶体絶命の2人はミナが率いる日本防衛隊第3部隊に救助され、その後、入院することになる。病院でカフカは、もう一度、防衛隊員を目指そうと誓うのだが、そこに小さな怪獣が現れ、カフカの口の中に潜り込む。そして、カフカは人型の怪獣に姿が変わってしまう。ここまでが第1話の流れだ。

 連載で読んだ時も感心したが「怪獣のいる現代日本」というSF的な世界に読者をうまく没入させた後、最後に大きな「引き」を用意するという、理想の一話である。

 カフカは人の心を保ったまま、人型の怪獣に変身してしまう体質となってしまい、病院から逃走する。怪獣の気配を察したカフカは、人間離れした身体能力を発揮し、巨大怪獣を殴り倒す。タイトルの“怪獣8号”とは怪獣化したカフカに付けられたコードネーム。自らの正体を隠した状態で、カフカはレノとともに防衛隊の入隊試験を受ける。

 この一巻では試験に挑むカフカたちの姿が描かれ、同じように防衛隊を目指す四ノ宮キコルたち前途有望な若者たちが登場する。書類選考の一次試験に合格したカフカとレノは、二次試験の会場へと向かう。二次試験は一部が体力検査、二部が資質検査で、防衛隊第二演習場で「防衛隊のスーツ」を着用しての怪獣討伐。

 試験はキコルが怪獣を全滅させ、あっさりと終了したかに思えた。しかし、人間の言葉を理解する人の姿に近い怪獣(らしき存在)が姿を現し、キコルを襲撃。そしてキコルが倒した怪獣を再生される。絶体絶命のキコル。そこにカフカが駆け付け怪獣に変身するところで次巻へと続く。

 物語冒頭で特殊チームに入るための試験が描かれるのは近年のジャンプ漫画の定石だ。その意味でとても読みやすい。同時にひねりが効いていると思うのは、主人公のカフカが「32歳のおじさん」ということだろう。身体能力も頭脳も明晰なエリート揃いの試験参加者たちの中でカフカの身体能力は一段劣るもので、体力検査では225人中219位。防衛隊のスーツの力を「どれだけ引き出せるのか」が指標の開放戦力も0%という、能力レベルでは落ちこぼれ。「30代の衰えってやつか!?」と、カフカはショックを受ける。

 勉強やスポーツのできない落ちこぼれが、他の人間にはない個性を発揮して成長するというのは少年漫画の王道だが、それは主人公が若くて経験の少ない未熟な少年だからこそ“可能性”として描けるものだ。すでに、伸びしろのないおじさんが現実を突きつけられる姿は、読んでいて辛いものがあるのだが、だからこそ30歳を超えて、夢に再挑戦するカフカの姿を応援したくなる。

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