小説だけじゃなく自己啓発も……日本の書籍の海外翻訳が急増中 翻訳エージェントに聞く、意外な「読まれ方」

日本の書籍の海外翻訳が急増中

 世界で注目される日本の文化はアニメや漫画だけではない。近年、日本の小説が海外で脚光を浴びるケースが増えている。

 たとえば2024年には、柚木麻子氏の2017年の小説『BUTTER』(新潮社)が、イギリスの大手書店チェーンが選ぶ『ウォーターストーンズ文学賞』を日本人作家で初めて受賞。イギリスで26万部、アメリカで10万部のベストセラーとなったことが発表され大きな話題となった。同作は男性3人を殺害した木嶋佳苗の事件をモチーフにした小説で、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなどから翻訳オファーを受け、現在35カ国での翻訳出版が決定しているという。

 また、2025年1月に文庫化された覆面作家・雨穴氏のホラー小説『変な絵』(双葉社)は、韓国やアメリカ、イギリスなど30の国と地域で翻訳出版され、海外での発行部数は30万部に達する予定だという。性別や年齢など、身元をいっさい明かさない独特のスタイルで幅広い層に人気を集めるYouTuberでもある雨穴氏だが、同月に都内で海外メディア向けに行われた記者会見でも全くスタイルを変えず登場。ボイスチェンジャーを使用した英語によるスピーチで作品の魅力をアピールした。(参考:謎の覆面ホラー作家・雨穴ってどんな人? 『変な絵』世界デビュー会見でわかった、国境を越えるパーソナリティ

欧米で需要高まる「日本的思想」

 このように日本の小説が海外の読者に広く届けられているが、それだけではなく実用書や自己啓発本までさまざまな日本の書籍の需要が今高まっている。

 翻訳出版権の契約などを手がける日本ユニ・エージェンシーの浦田理子氏は、「フィクションだけでなく、料理や手芸を扱う実用書、また自己啓発書と呼ばれるジャンルの書籍の需要も増えています」と説明。日本ユニ・エージェンシーの扱う書籍だけでも、2010年代から20年代にかけて、翻訳点数は約3倍に増えているそうだ。詳しい話を聞いた。

英語版『人生がときめく片づけの魔法』

「もっとも大きな話題となったのが、近藤麻理恵さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版/改訂版は河出書房新社より刊行)の世界的ヒット。国内に限らず掃除術を紹介した本はそれまでもありましたが、近藤さんのような“心がときめくかどうか”という自己啓発的発想をもとにした掃除術はなかなか欧米圏にはなかったものです。これが日本ならではということで注目され、この本をきっかけに佐々木典士さんの『ぼくたちに、もうモノは必要ない』や『ぼくたちは習慣で、できている。』(ともにワニブックス)といった日本のミニマリストの書籍のヒットにも繋がりました」(浦田氏、以下同)

 日本人の精神的思想を記した本では、脳科学者・茂木健一郎氏が英語で発売した書籍『IKIGAI』が世界中で話題に。同著は31カ国で翻訳出版され、2024年にはドイツのノンフィクション部門のベストセラー1位を30週以上続ける社会現象となった。

 浦田氏はこうした書籍のヒットについて、「禅的な発想などさまざまな教えを学び、日々の生活をハッピーに生きようと実践する海外の読者に、高く評価されているようです。欧米、特に英語圏の地域では、それまで海外の書籍を翻訳出版するという習慣が少なかったが、そこに変化が出てきた。混沌とする世界情勢の中で、ひとつひとつの問題を解決する新しいアイデアとして日本の本が注目されています」と話す。

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