出版界もアフリカに熱視線、実業之日本社、アフリカ・ジンバブエで漫画家発掘 来夏に日本で刊行へ

実業之日本社ジンバブエで漫画家発掘へ

 出版界が今、静かに新しい地平へ向かおうとしている。舞台はアフリカ南部の国・ジンバブエ。創業128年の歴史を持つ出版社・実業之日本社が、カイカフィナンシャルホールディングス、駐日ジンバブエ大使館と連携し、現地の若手漫画家を日本に紹介する国際文化交流プロジェクトを立ち上げている。来夏には日本語版の刊行を予定しており、日本の読者に、これまで触れる機会の少なかったアフリカ発の“リアル”と物語が届けられる。

■「知られていない文化」を可視化するプロジェクト

 今回の取り組みは、単なる翻訳出版ではない。現地作家と編集者が伴走しながら作品を磨き、日本語としての表現、読者への届け方を一からつくり上げていくという、きわめて編集的な支援プロジェクトでもある。

 文化は“知ってもらうこと”ではじめて立ち上がり、“応援されること”で成長する。ジンバブエの若手漫画家が描く作品には、彼らが暮らす社会、家族の営み、都市と自然、夢と葛藤といった日常のリアルが、素朴であたたかく、時に鋭く表れるという。そこには、ヨーロッパでもアジアでもアメリカでもない、アフリカ独自の視線と語り口がある。

 そして、この独自性こそが、日本の読者にとって新鮮な驚きと感動をもたらすと期待されている。世界的に漫画市場が拡大する中で、「日本発」だけでなく「世界の漫画」を日本で紹介する動きが、少しずつだが確実に広がりつつある。

■なぜジンバブエなのか

 ジンバブエでは、これまでもアニメイベント「JapanDay」や「Otakukon」が盛況を見せてきた。会場には数百〜千人規模の若者が集まり、コスプレ、漫画、アニメを媒介にした文化交流が自然発生的に続いている。日本の漫画やアニメは、同国の若者にとって憧れであり、学びであり、自分の物語を表現する羅針盤にもなっている。

 2000年代後半のハイパーインフレーション以降、ジンバブエ社会は課題を抱えつつも回復基調にある。若者の失業率やキャリア機会の不足は国全体のテーマであり、創造的分野での育成・支援は喫緊の課題だ。そんな中で、マンガは若者が持つ才能を引き出し、自分の声を世界へ届けるための強力なツールとなっている。

 漫画は、資本や設備がなくても創作に挑戦できる“民主的な表現”だ。紙とペン、あるいはスマートフォンの作画アプリさえあれば、誰しもが物語を描ける。厳しい社会環境の中でも、「ストーリーを描く」ことが、自分自身を立ち上がらせる希望の光として機能しているのだ。

 今回、プロジェクトに参画するカイカフィナンシャルホールディングスは、ブロックチェーン技術を活用し、支援の流れを“見える化”する仕組みづくりを担う。寄付でも投資でもない、“文化支援としての透明性”を重視している点が特徴的だ。

 これまで国際文化交流プロジェクトの多くは、支援の過程や資金の流れがブラックボックス化しやすかった。だがブロックチェーンの技術を使えば、「誰が、どの作家を、どのように応援しているのか」をデジタル上で記録し、追跡可能にできる。これは、文化継続のための新たな支援モデルとなり得る。

 出版業界はデジタル化や読者行動の変化という課題に直面しているが、このプロジェクトには“出版とテクノロジーの新しい共生”のヒントも含まれている。文化的価値、社会的意義、テクノロジー、そして市場の可能性。さまざまな要素が交差しながら、新しい海図が描かれつつある。

■国境を越えて物語は巡る

 ジンバブエ特命全権大使のステュワート・ニャコチョ氏は、「困難な環境でも創造を信じて生きる若者たちにとって、自分の物語を世界に届けるチャンスになる」とコメントする。日本の漫画文化への深い敬意と、作家たち自身の強い表現欲求がこのプロジェクトを支えている。

 実業之日本社の岩野裕一社長は、出版の本質を「国や言葉を超えて“声”を届ける仕事」と語り、現地クリエイターが自らの言葉で描いた作品を、日本の読者と出会わせる意義を強調した。物語を通じた相互理解は、文化交流の最前線であり続けてきた出版のDNAとも言える。

 カイカフィナンシャルホールディングスの鈴木伸社長は、「日本とジンバブエの文化や価値観を結びつける架け橋となりたい」と語り、デジタル技術を“透明性と継続性のために使う”という明確なビジョンを打ち出している。

 世界はすでに、音楽、映画、ファッションといったさまざまな領域でアフリカの創造性に注目しはじめている。漫画もまた例外ではない。むしろ、物語を通じて世界をつなぐメディアとして、これほど適した表現もないだろう。

 来夏、日本の書店やネット書店に並ぶであろうジンバブエ発の漫画作品。それは単なる“海外漫画”ではなく、国境を越えて共鳴し合う若者たちの物語であり、出版業界が未来へ向けて新しいページを開く象徴となる。

 出版界は今、ゆっくりと、しかし確実に世界を見つめはじめている。その先に広がるのは、誰もが想像しなかった“新しいマンガ地図”かもしれない。

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