小説だけじゃなく自己啓発も……日本の書籍の海外翻訳が急増中 翻訳エージェントに聞く、意外な「読まれ方」

不安定な世の中で、日本の書籍が担う「癒し」の役割

また、欧米社会では日本の書籍が「癒し」として捉えられているようで、小説では川口俊和氏の『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版)シリーズの累計発行部数が世界で750万部を超えたことも。同作は過去に戻ることができるという不思議な喫茶店を舞台にした小説で、45言語に渡り翻訳がされている。
「世界中で戦争や紛争があり、政治的にも不安定な世の中で、感動して泣ける、心洗われるような、そうした作品へのニーズが高まっており、日本のいくつかの小説が『ヒーリング小説』としてヒットしました。“カフェ”や“書店”や“図書館”、あとは“猫”といったキーワードが受ける傾向にあり、それらのものがストーリーに登場する作品は他にあるかと海外の出版社から聞かれることが多いです」
ただ「癒し」の一方でトレンドの移り変わりが激しく、前述した雨穴氏の『変な絵』のように、日本のホラー小説、ミステリー小説の人気が高まっているのだとか。

「日本ユニ・エージェンシーで扱った書籍では近年、横溝正史の『金田一耕助』シリーズの反響が高く、非常に驚かされました。一番最初に売れたのは2017年に翻訳した『本陣殺人事件』。日本の読者にとってはおなじみの作品ばかりですが、『獄門島』に『犬神家の一族』に『八つ墓村』など、いずれも設定が戦前だったり戦争直後で、閉鎖的な田舎を舞台にした殺人事件を扱う名作推理小説が海外の読者に人気なんです。今イギリスをはじめ、フランス、スペイン、イタリア、ドイツで翻訳出版されており、さらに人気に火がつきはじめています」
日本の書籍が世界中で受け入れられる背景には、日本ならではの視点や価値観の新鮮さと、世界に共通する普遍的な感情との融合がある。出版不況と言われて久しいが、今後さらに多様なジャンルが海外で注目され、日本の書籍が新たな文化交流の架け橋となることが期待される。
























