SHEIN 、米国の書籍市場に参入 Z世代の紙の書籍回帰で広がる今後の行方は?

SHEIN 、米国の書籍市場に参入

 世界最大級のファストファッション企業であり、ECテック企業としても成長するSHEINが、米国で書籍市場に参入した。アパレルから生活雑貨、インテリア、DIY用品まで領域を広げてきたSHEINが“次に選んだのが本”だというニュースは、米国出版界だけでなく世界のEC業界にも大きなインパクトを与えている。

 背景には、Z世代のあいだで起きている“紙の本への回帰”という明確な潮流がある。TikTokの#BookTokを中心に、若い読者が紙書籍を積極的に購入する流れが欧米で続いているが、今回のSHEINの参入は、この読書行動の変化を見越した戦略的な一手と言える。

■SHEINが書籍を扱う「必然」

 SHEINはアパレル企業として語られることが多いが、その本質は“最短距離で欲望にアクセスするECプラットフォーム”である。ユーザーが欲しいと思ったものを、最速で、最安で、最も視覚的にわかりやすく、レコメンドする。そのアルゴリズムの強さが、驚異的な成長の原動力だ。書籍は、実は最もアルゴリズムと相性の良い商品カテゴリーである。レビュー数、ジャンル、テーマ、表紙の視認性、SNSトレンドとの連携など、データ化できる指標が多く、ユーザーの趣味嗜好をAIが精緻に読み取れる。

 さらにZ世代にとって書籍は“自己表現アイテム”でもある。SNSに映える表紙、推し本、テーマ特化の本棚、生活空間の演出。こうした行動様式はSHEINが最も得意とする領域なのだ。

 SHEINが目指すのは、単に本を売ることではない。本棚、収納、インテリア、ステーショナリー、照明……**読書空間そのものをSHEIN内で完結させる“本棚構想”**が見え隠れする。Z世代がシェアする“整った部屋”“世界観のある空間”の投稿は、SHEINのインテリアカテゴリで既に重要な売上を生んでいる。そこに書籍が加わることで、〈本+部屋+自己表現〉を丸ごとECでデザインするという巨大なセット販売モデルが成立する。

 このビジネスは、Amazonとも異なる文脈を持つ。Amazonは利便性の頂点にいるが、SHEINは“世界観と感情への最適化”を武器としている。

■Zなぜ今「物質性」が求められるのか

 欧米の書店では、Z世代の来店が目に見えて増えている。その理由は、SNSで推された本を“モノとして欲しい。部屋に並べることで自分のアイデンティティを可視化できる。電子より紙のほうが“推し活”として共有しやすい。限定版・特装版がファングッズとして機能するといった、デジタル時代ならではの動機にある。SHEINは、この物質性への回帰を正確に捉えている。安価なファストファッションが“消費される”のとは対照的に、紙の本は長期的に価値を持ち、部屋に居場所を持ち続ける。つまり本は、Z世代にとって「残る消費」の象徴でもある。ファストからスロー。消費から所有。その橋渡しをする商品として、本は非常に魅力的だ。

 書籍市場への新規参入は、従来の出版流通に大きな揺さぶりをかける可能性がある。出版界にとって重要なのは、SHEINの参入を“売上の奪い合い”として見るのではなく「読者の入り口が増える」「本が見つかる機会が広がる」という視点だろう。書籍は本来、複数の入り口があっていい。書店で出会う読者がいれば、Amazonの検索で出会う読者もいる。そして次はSHEINのレコメンドで出会う読者が現れるだけのことだ。

 もしSHEINが本格的に米国で書籍販売を拡大し、日本を含むアジア圏に展開すれば、書店のSNS化、出版社のマーケティングDX、本棚そのもののブランディングといった変化が加速するだろう。本を買う場所は、書店でもあり、ECでもあり、さらに“自分らしさを装飾する空間の一部としてのSHEIN”にもなる。これは、出版を“コンテンツ産業”としてではなく、ライフスタイル産業”として再定義する動きの始まりかもしれない。Z世代が本棚を持ち始める。その瞬間に、SHEINはすでに手を伸ばし始めている。

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