現代の若者は『AKIRA』を楽しめない? 評論家が指摘「キャラクターと物語の良し悪しで語る傾向が強まっている」

現代の若者は『AKIRA』を楽しめない?

 大友克洋による伝説的漫画『AKIRA』(講談社)。連載開始から40年以上が経過したなか、2026年1月3日にはNHK・Eテレで劇場版アニメ「AKIRA」が放送され改めて大きな注目を集めた。ただSNS上では一部「凄さがわからない」といった声もあり、作品の評価についての議論が見受けられた。今回はドラマ評論家の成馬零一氏に、漫画表現の歴史における『AKIRA』の衝撃と、現代の視聴者が抱く違和感の正体について話を聞いた。

『AKIRA』全6巻(大友克洋/講談社) 現在は加筆修正前の「連載バージョン」が収録された新装版が発売されている。

「『AKIRA』は連載が始まった1980年代において「日本の漫画表現の極北」に到達した作品で、その後の漫画のビジュアル表現は『AKIRA』が基準になったと言って過言ではないでしょう。日本の漫画は手塚治虫が活躍した時代から『どのようにして映画に近づけるか』というテーマがありました。それは、キャラクターや背景を写真のようにリアルに描くことであったり、コマ割りによって動きを表現すること。あるいは、見開きで迫力のある映像・風景を見せるといった形で、映画的な表現を取り入れていった。よく『大友以前・大友以後』と言われますが、大友克洋が登場したことで『ビジュアル表現としての漫画』は、一度完成したと言えます」

 大判で出版された単行本の存在感も、読者に大きな影響を与えたと成馬氏は続ける。

「本のサイズがB5判と大きく、表紙のデザインがカッコよくて、作画も精密に描き込まれていたので、漫画を読むというよりは、豪華なアートブックを読むような感じでした。子供向けだと思われていた漫画を、高級感のあるアートブックとして打ち出したのが当時は画期的でした。そうでありながら、中身はめちゃくちゃ面白い漫画であり、説明的な台詞は最小限で、日本の漫画の魅力が凝縮されている。その影響は絶大で、『AKIRA』以降に出てきた漫画は正統に進化したというより、ボールペンや筆、あるいはCGを用いるなど、画材を変えることで異なる絵柄を打ち出すという方向へ分岐していったように感じます」

紙の縁にも着色が施されている。

 『AKIRA』は表現の革新と同時に、当時の空気とも結びつけて語られてきた。フラットな描写が、バブル前夜から狂騒へ向かう熱に乗り切れない感覚と重なった、という見方もある。次に成馬氏は現代の漫画界で大きな注目を集める藤本タツキの名前を挙げ、漫画史の更新について指摘する。

「藤本タツキが出てきたことで、大友克洋以来の漫画表現の更新が起こっていると感じます。藤本の場合は「コマ割りによって何が表現できるか」を模索しているという印象ですね。例えば『ルックバック』なら、京本が机に向かう背中越しのコマを並べることで歳月の流れを語るといった演出です。大友がかつて担っていた役割を今は藤本が担っている。若い漫画読者の方は、そういう風に捉えると当時の『AKIRA』と大友克洋の凄さが理解できるのではないかと思います」

 一方で現代の読者が『AKIRA』に対して抱く「わからなさ」については、作品の受け取り方の変化があるという。

「SNSが普及して以降、漫画やアニメを、キャラクターと物語の良し悪しで語る傾向が強まっていると感じます。その結果、世界観を見せることに重点を置いた作品の良さが伝わりづらくなっている。連載当時の『AKIRA』は近未来の東京の荒廃した街並みやメカのディテールを通して描かれる世界観や、超能力の見せ方といった表現の部分に注目が集まっていた。逆に、キャラクターや物語に重点を置く語りはそんなに多くなかったと記憶していて、敷居が高いところがあった。ですが、SNSでの近年の語られ方を見ていると、金田と鉄雄の物語として正面から読む人が増えていて、キャラクターと物語に対する関心が強まりつつある。この語られ方の変化は少年ジャンプで連載されていた時の『チェンソーマン』の盛り上がりと、アニメ映画になった劇場版『チェンソーマン レゼ編(以下、レゼ篇)』の盛り上がりの違いと、とてもよく似ていると感じます。漫画『チェンソーマン』第一部が連載された当時は藤本タツキという漫画家が次はどんな斬新な表現を見せてくれるのか? という関心の方が強かったと思うのですが、映画『レゼ篇』ではデンジとレゼのカップルの物語として観客が純粋に楽しんでいて、SNSも『レゼ可愛い』という声で溢れている。こういった見られ方の変化が、近年の『AKIRA』の評価にも起こっているように感じます」

 作品の根底に流れる精神性、将来的な作品評価についても成馬氏は独自の分析を述べる。

どこかで目にしたことがある人も多いであろう『AKIRA』単行本

「『AKIRA』と同時代に大ヒットしたオタクコンテンツと言うと、宮﨑駿監督の『風の谷のナウシカ』と富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』シリーズを連想する方も多いと思います。この二作は壮大な世界観を提示した哲学的なテーマを扱った文学的な作品として、現在も評価されています。一方、『AKIRA』は一応、制御できない巨大な力に翻弄される人類の業といったテーマはあるのですが、あくまで本作はエンタメ作品で、漫画やアニメの表現の革新による、映画に匹敵する面白いエンタメ作品を作ろうという意思の方が強かった。だから、いい意味でヤンキー漫画的な単純明快なところがあります。まさに「健康優良不良少年」といいますか。根底にあるのは金田と鉄雄という男の子同士のケンカですし、そういう健全なヤンキー性は、むしろ『AKIRA』という作品が持つ強みではないかと思います。

 ただ、一方で暴力による身体破壊の描写は今観ても過激で、露悪的なビジュアルをあえて全面に打ち出している。その意味でジブリやディズニーの映画とは立ち位置が違うんですよね。あくまでサブカルの王様という感じです」

 キャラクターや物語性だけではなく、ビジュアル表現や世界観に着目すると『AKIRA』の「凄さ」が理解できそうだ。

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