違法行為、不幸な事故、特殊詐欺、差別問題……逢坂冬馬が現代の問題を描く『ブレイクショットの軌跡』

現代の問題描く『ブレイクショットの軌跡』

 逢坂冬馬の『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)を読んでいたら、いきなり「底抜け脱線ゲーム」という言葉が頭に浮かんだ。昔のテレビのバラエティ番組のことである。といっても番組そのものはどうでもいい。肝心なのは「底抜け脱線ゲーム」という番組名だ。本書で描かれている世界を的確に表現していると思えてならないのである。

 作者は本書のプロローグで、ふたつの世界を提示する。ひとつは日本。本田昴という二十代後半の男性が、「バー・レインボー」というライブハウスのイベントに行く。世玲奈という女性と出会い、付き合い始める。草食性男子という言葉を知ってから、自分をそのような存在だと規定してきた昴。世玲奈とは驚くほど気が合ったが、自動車期間工として静岡の工場に行き、離れ離れになってしまう。そしてLINEの会話で、別れを告げられたと思い込むのだった。また、期間工の最終日に、揉め事のあった同僚が組み立て中の「ブレイクショット」というSUVのボルトを、ひとつ車体の中に落とすのを目撃し、どうしようかと悩むのだった。

 まるで恋愛小説のような内容だが、続けて中央アフリカ共和国で、家族から牛の代わりに武装勢力「民族抵抗戦線」に差し出され、少年兵になったエルヴェの日常が綴られていく。同じ少年兵のフェリックスとコンビを組み、市販車改造の軍用車両、通称「ホワイトハウス」を任され、護衛や誘拐をしている。この時点ではっきりしないが、この改造された市販車は「ブレイクショット」であろう。

 というプロローグを経て、日本を舞台にして、さまざまな人物の物語が展開していく。成長著しいファンドグルーブの副社長・霧山冬至。冬至の息子でサッカーの才能のある修悟。修悟の友人で、幼い頃から頭脳明晰な後藤晴斗。晴斗の父親で板金工の友彦。「超一流になること」を目指し、無意識のうちに息子の人生をコントロールしようとしたり、友彦を見下していた冬至は、思いもよらぬことで転落していく。そして自家用車の「ブレイクショット」を手放すのだった。その「ブレイクショット」を、前の持ち主を知らないまま購入した友彦は、常に善良であろうとしながら、予想不可能な悲劇に襲われる。そして修悟と晴斗の人生も、大きく変化するのである。

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