【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 歴史ミステリから珠玉の恋愛青春小説まで、注目の新刊をピックアップ

【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー

汐見夏衛『雨上がり、君が映す空はきっと美しい』(スターツ出版文庫)

 映画化された『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』をはじめ、珠玉の恋愛青春小説で人気の汐見夏衛。本作は2021年に単行本で出版された『雨上がり、君が映す空はきっと美しい』に、書き下ろしの特別番外編も加えた待望の文庫化だ。

 高校1年生の美雨は、そばかすや癖のある髪の毛などの容姿と、気が弱くて卑屈な考え方しかできない自分の性格にコンプレックスを抱いている。そんな美雨が恋をしたのは、自分とは正反対の、太陽のような笑顔がまぶしい高遠映人先輩だった。映画が大好きで映画研究部で自主制作映画に打ち込む彼の隣には、宇崎知奈という美しい女の子がいつもいる。美雨の一方的な憧れで終わるはずの叶わない恋は、思いがけないかたちで動き出した。ある日彼女は、映人から自分の作る映画で主演してほしいと声をかけられて――。

 憧れの先輩からスカウトされたにもかかわらず、自信がない美雨は頼みを断った。だが彼はめげることはなく、何度でも誘いに来る。自分が打ち込むものには一途で、他人の目なんて気にしない。「明るい変わりもの」の映人と関わる中で、美雨の心にも少しずつ変化が生まれていくのだった。

 等身大の思春期の少女の内面を繊細なタッチで綴りながら、彼女を取り巻く情景も鮮やかに映し出す。とりわけ雨など水にまつわる透明感あふれる描写が絶品で、雨に関連したことばを散りばめた各章タイトルも美しい。物語を読み終わると、目に映る世界が輝き出すだろう。

菊川あすか『大奥の御幽筆 約束の花火』(ことのは文庫)

 11代将軍・徳川家斉時代の大奥。御年寄·野村の部屋方として大奥に上がった里沙は、亡霊が見える不思議な目を持っていた。やがて里沙は、亡霊にまつわる怪奇な事件を解決して記録する「御幽筆」という、秘密の役目も担うことになる。彼女と行動を共にして陰ながら支えるのが、記憶を失った美しい侍の亡霊・佐之介。二人は互いに惹かれあっているが、そこには生者と死者という大きな隔たりが横たわっていた。

 ある日、里沙の部屋に謎の女性の亡霊が居座るようになり、自分の死因を突き止めてほしいと頼む。さらに、女中の初音が就寝中に激しくうなされていると相談が持ち込まれ、調査に乗り出した。初音の調査を頼んだのは、彼女の友人の夕霧だった。夕霧は大切な仲間の身を案じているのだが――。

 お江戸小説の第3弾は、大奥で働く「女たちの友情」をテーマに展開。初音が巻き込まれた怪異と、謎の女性の亡霊が抱える過去から、大奥に生きる女性たちの絆と友情が浮かびあがる。これまでは疎まれてきた自身の力を生かせる大奥という居場所を見つけた里沙は、苦しんでいる死者、そして生者を助けようと奮闘。厳しいが人情のある野村や、意外な過去が明かされる里沙の指導係のお松など、脇役たちの存在感も物語に厚みを与えている。

 佐之介の記憶も少しずつ戻りつつあるが、彼の過去には何やら不穏な気配が漂う。里沙との恋の進展とあわせて、今後の展開にも期待を寄せたい。

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