もしも寺山修司が今、アイドルをプロデュースしたら? 中森明夫『TRY48』が紡ぐ、アングラからサブカルへの連続性
しかし、カウンターカルチャーから反体制的な気風を中和したサブカルが一般化して久しい現在、それはまだ有効なのか。アングラのハプニングをインターネットが普及した今再現すれば、迷惑系ユーチューバー、ツイッターでのやらかしなどが引き起こす炎上騒動が容易に連想されるだろう。過去の寺山と後のサブカルに多くのリンクを見出せるのは、彼が先駆者であったと同時に、今はその手法がありふれたものになったことを意味する。
作中では、寺山が1980年に取材中、住居侵入容疑で逮捕され、覗きを疑われた件にも触れ、劇団員に対する彼の行為がセクハラ、パワハラだったと批判されもする。寺山の業績の理解者であり批判者でもある黒子が、なぜサブコ=寒川光子と命名されたかといえば、サブカルに浸ることが“寒い”ことでもあるからだろう。この小説では、寺山への肯定と否定がせめぎあっている。
そして、注目すべきは、主人公の平凡さである。東京都知事と同じ名の百合子だがなんの力もなく、姓は深井だが浅い考えしか持たない彼女。そんな主人公でもサブカルのポジティブとネガティブに揉まれるうちに「新しい時代、新しい世界へ」の希望を抱くに至る。
本作を読み終え、中森の最初の小説集『東京トンガリキッズ』(1987年)を思い出した。同書はオムニバス形式の青春小説だが、まえがきでは、すべてが終った、残されたのはコピーばかりといいながら、それでも「さあ、新しいアソビを始めようゼ!」と呼びかけていた。それから36年が経過し、著者の思考も技巧も高度化した。だが、かつての寺山と以後を対比しサブカルが反復のうちにあることを示した本作は、すべてがコピーであることを前提にした『東京トンガリキッズ』の延長線上で書かれている。サブカルに囲まれた自分たちは、たとえそれがガラクタでもそこから新しい遊びを見つけようという姿勢は変わっていない。TERAYAMA略してTRYだが、これはTRY(やってみる)の物語でもあるのだ。
■書籍情報
『TRY48』
発売日:2023年2月1日
価格:2,200円
出版社:新潮社