『HUNTER×HUNTER』なぜ複雑かつ難解でも支持されている? “考察の時代”ならではのエンタメ性

6月29日、『HUNTER×HUNTER』(集英社、以下『H×H』)の連載が週刊少年ジャンプで再開された。そして、7月3日にコミックスの第39巻が発売されたのだが、XやYouTubeで『H×H』の面白さについて多くの読者が発信しており、ネット上はお祭り騒ぎとなっている。
※以下、ネタバレあり。
『H×H』は冨樫義博が1998年から連載している少年漫画で、プロハンターの少年・ゴンがクラピカ、レオリオ、キルアたち仲間と共に様々なミッションに挑んでいく姿を描いた冒険譚だ。ハンターとは、秘宝、賞金首、美食・遺跡・幻獣といった希少なものを追い求める人々の総称で、ハンター試験に合格して、プロハンターの資格を得ると一生不自由しない破格の特典が得られるようになる。また、プロハンターになった者は、念能力という特別な力を習得することになり、劇中では念能力を駆使した異能力バトルが繰り広げられる。
ファンタジーRPG的なお宝探しの冒険譚とジャンプ漫画が得意とするバトルの面白さがミックスされた『H×H』は、魅力的なキャラクターと、細部まで作り込まれた設定と、先の展開が読めない物語が人気を博しており、尾田栄一郎の『ONE PIECE』(集英社)と並ぶ、ジャンプの看板作品となっている。
現在の『H×H』は、ハンター協会会長の息子・ビヨンド=ネテロがカキン王国と手を組んで、人類最大のタブーと言われる暗黒大陸に進出するという壮大な物語となっている。クラピカたちプロハンターは、ビヨンドの監視役として暗黒大陸に向かう巨大輸送船B・W(ブラック・ホエール)号に乗船することになる。だが、船内では、カキン王国の次期国王の座をかけて14人の王子たちが争う王位継承戦がはじまり、クラピカたちも巻き込まれていく。
主人公のゴンが退場して不在の中で進んでいる王位継承編は、14人の王子たちの私設兵と従事者、王妃と王妃所属兵、プロハンター、そして彼らが使用する念能力と王子たちの守護念獣が絡んだ複雑な組織戦が展開される。また、B・W号には20万人の乗客が乗っており、第1層は王族とV5(五大陸を代表する5つの国)の政財界の要人、第2層は各界の著名人や富裕層、第3~5層は一般渡航者の居住エリアとなっている。3~5層は、王子たちがバックについているカキンのマフィア3組が仕切っているのだが、エイ=イ一家の組長・モレナ=プルードの仲間達が船内で無差別殺人を始めたことで、一般渡航者の間でも混乱が起こり出す。そして、クラピカと因縁のある盗賊集団・幻影旅団も仲間を殺したヒソカを狩るために乗船しており、船の中は一触即発の状態にある。
王位継承編は、これまでの『H×H』のエピソードの何倍も設定が複雑で登場人物が多い。そのため、状況を説明する台詞やナレーションも激増しており、どのページも小説のような膨大な文字量となっている。正直、漫画としてはとても読みにくく、話も中々進まないため「話についていけない」と何度も脱落しそうになった。しかし、当初は欠点に思えた文字情報の多さも長い期間読んでいると、今の時代ならではの漫画表現ではないかと感じるようになってきた。
『H×H』の最新話が配信されるとSNSでは膨大な感想が流れ、YouTubeには考察動画が多数流れる。そういった考察動画や解説コメントを参照しながら最新話を読むと、一人では理解できなかった細部の情報についてもフォローされているため、だいぶ読みやすくなる。それでも物語は複雑で読者全員が頭を悩ませているのだが、ネットを経由して全員で『H×H』を読むという行為には、複雑なパズルを全員で解いていくような楽しさがある。
同じようなことは犯人捜しを楽しむ考察系のミステリードラマなどでもおこなわれているが、『H×H』の場合は結末や今後の展開を予測するというよりは、膨大な情報を整理して読み解いていくことで読者が一体化しており、この読み解くという行為自体がハンターに課せられたミッションのようでとても楽しい。
漫画が長期連載となり、登場人物が増えて物語や設定が複雑化すると、熱心な読者以外は脱落して新規参入が難しい閉じた内容となる。その結果、作品自体の力が落ちていくことがほとんどで、『H×H』もそうなってもおかしくなかった。
だが、ネットが発展して大勢の読者が同時に考察して内容を読み解き、すぐにその情報を共有できる状況が成立するようになると、他の読者の考察を補助的に見ることで、作品を追うことが可能となる。その結果、これ以上やると読者がついていけないというストッパーを作者が外して、本当にやりたいことをすべて盛り込んだ複雑で難解な漫画を作ることが可能になった。
批判的に語られることが多いネットの「考察」だが、現在の『H×H』の読まれ方を見ていると、むしろ「考察」によって作品が救われていると感じる。複雑で難解な物語を容赦なく展開する『H×H』に対し、集団で「考察」することで何とかついて行こうとするレベルの高い読者を生み出した状況こそが、王位継承編の一番の面白さなのかもしれない。























