ジェーン・スーが語る、“未婚のプロ”の生き方 「大人になって、意図的に“悪さ”をするようになった(笑)」
コラムニスト、ラジオパーソナリティのジェーン・スーによる新作エッセイ集『これでもいいのだ』(中央公論新社)が好評だ。1月9日の発売から2か月で4刷り3万部突破と売り上げを伸ばしている。これまでの著書も同年代女性からの支持が厚いが、新刊では46歳を迎えたジェーン・スーが「思ってた未来とは違うけど これはこれで、いい感じ。」と感じる日々のできごとがつづられ、人生に悩める読者から「救われた」という声が多く上がっている。エッセイから拾ったキーワードをもとに、ジェーン・スー本人にインタビューを行った。(石井かすみ)【最後にサイン入り書籍プレゼント企画あり】
「ホッとした」という感想は全く予想していなかった
――新刊の『これでもいいのだ』はどんなテーマで執筆したのでしょうか。
ジェーン・スー(以下、スー):婦人公論の連載を中心にまとめたもので、連載中は「日常であったこと」を月1回書いていたんです。だから、特に明確なテーマはなかったのですが、改めてまとめて読んでみたら、多様性というと大げさかもしれないけれど、生き方の正解は一つじゃないということを書いているのかなと思って、このタイトルにしました。
――読者の反応も「読んで救われた」「ホッとした」という声が多いですね。
スー:「ホッとした」という感想をいただけたのは、予想外でした。というのも、誰かにホッとしてもらえる立場に自分が立っている意識がなかったので。「これでもいいのだ」というのは、あくまでも私が私を肯定する個人的な発言だったんです。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(2014年/幻冬舎)の延長線上で、歳を重ねたバージョンとして書いたつもりだったんですが、今はまたちょっと違ってきていて、ある意味で承認を授ける立場と目されているんだなと。「これは気を引き締めなきゃ」と思っているところです。
――スーさんはご自身の生き方を受け入れていて、新しい問題にも柔軟に対応しているので、ファンにとっては頼もしく見えるのだと思います。
スー:ありがたいことです。せっかく読んでもらえるならと、なにごとも面白おかしく書いてるつもりなので、それが常に腹落ちのいい人に見せるのかもしれませんね。でも、私が自分を受け入れているように見えるのは、自分の中で完了したことを外に出しているからであって、まだまだ人に言えない恥ずかしいことやみっともない感情もある。例えば父親のことについて書いたものは、実際に起こっている当時は誰にも話せないようなことだったし、まさか書いて世の中に出すなんて思ってもいなかった。書いてあるのは、読んでもらえるところまで消化できたものです。
大人になって“悪さ”をするようになった
――エッセイの内容からいくつか質問させてください。「バブルパワーにあやかりたい」というコラムでは、文筆業の先輩と食事に行ったことが書かれていました。目当ての蕎麦屋があったのに、間違えて近くの別の蕎麦屋を予約してしまって先輩が落ち込んでいるところに、スーさんが「ならばそっちにも行こうではありませんか」と言って蕎麦屋をはしごします。私も店選びに失敗すると落ち込んでしまうのですが、どっちも行くという手があったのか、と驚きました。
スー:先輩が乗ってくれたので私もびっくりしましたけれど(笑)。あれは蕎麦だったからできたことですね。
――大人になったからこそ提案できる、余裕のある解決方法だと思いました。日常でもそういう手段を取ることは多いですか?
スー:意図的に“悪さ”をするようにはなりましたね(笑)。私は子どもがいるわけではないから、ちゃんとしている必要はないんですよ。今、私の中で流行っているのは、決して衛生的じゃないので人に勧められないんですけど、ジュースを4本くらい買って片っ端から開けて飲むこと。以前は「一回で飲みきれないから炭酸はやめよう」とか、いろいろ考えて買ってたんですけど、「別に一度に飲み終わらなくてもいいじゃん」と思うようになって。オレンジジュースとかグレープフルーツソーダとかをちょっとずつ出して、飲みたいだけ飲んであとはしまっておく。実家でやったら絶対に親に怒られるやつ。自己責任ってこういうことだよな、あ~おいしかったって。
――自分で責任を取ることができる立場を楽しんでいるんですね。そして、「ゴッドマザーを頼まれて」のエッセイも印象的でした。ロンドンで暮らしている20年以上の付き合いになるご友人から、娘さんのゴッドマザーになってほしいと頼まれるお話で、何をしたらいいのか戸惑うスーさんに、ご友人は「娘にとって、インスピレーショナルな存在でいてほしい。つまり、いまのままのあなたでいてくれればいいの」と。子どもを持たなくても、子育てへの関わり方はいろいろあるんだなと感じました。スーさんはラジオでも、子育て支援サービスの話題などをよく取り上げています。
スー:私は子供を産んだり育てたりしていないのですが、産んだり育てたりしてる人の役には立ちたいんです。親たちが肩身の狭い思いをしなくていいように、特に母親たちが一人で抱えている苦労を少しでも減らすことができるのなら、それはやっていきたい。私みたいな仕事をしているなら、その人たちの話を聞く、ラジオで紹介する、コラムに書く、新しい提案をするとかもできる。そういう関わり方ができるのは、とても恵まれてると思っています。
――スーさんは“未婚のプロ”を自認しています。女性にとって結婚や子育てが大事という価値観とは、どのように折り合いをつけたのですか?
スー:私が自力でその問題を乗り越えたというより、「これ、やらないといけないんだよな……」とウダウダしてるうちに世の中が変わって、「あら? やらなくてもいいのでは?」となった感じです。ただ、言っておきたいのが、私は「絶対に結婚しない」と決めてるわけでもないんです。システムとしてちょっと不備が多すぎるなとは思いますけれど。
例えば、女性が社会から背負わされている結婚や出産へのプレッシャーと同じように、男性だってなにかしら背負わされていると思うんですよ。男性は男性で、特にお堅い職業だと「結婚していないと社会的に信用がない」とかまだあると思うし、稼ぎ手として「家族を養えるかどうか」を問われるんじゃないかというプレッシャーもある。女性の側には「男性に選ばれる」というプレッシャーがあるし、「子どもを産んで一人前」という価値観だってまだあるでしょう。結婚にまつわることでは男性も女性も依然窮屈な価値観に縛られていて、だからこそ社会のシステムとして機能しなくなってきたのかなと。
私自身、「結婚しなきゃいけない」との思いが年々減ってきているのは事実。でも、多分それは、誰かの庇護のもとにいなくても、婚姻関係をもとに誰かに一人前と認められなくても、経済的にも精神的にも自立できるという自信がついてきたからだと思います。