「岸辺露伴」シリーズに見る“漫画を実写化する意義” 1月3日&5日の放送で高橋一生の演技に注目
高橋一生主演のドラマ『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」が本日1月3日(金)23時5分から、また、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が1月5日(日)0時10分(※土曜深夜)から、NHK総合にて放送される(前者は再放送、後者は2度目の地上波放送)。
いずれも原作は、荒木飛呂彦による漫画作品。「密漁海岸」は、『ジョジョの奇妙な冒険』のスピオフ『岸辺露伴は動かない』シリーズの1編、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、2010年、「ルーヴル美術館BDプロジェクト」の1冊として描かれたオールカラー作品だ。
ちなみに、「岸辺露伴」は本来、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部のサブキャラクターの1人なのだが、タイトル通り、これらのスピンオフ作品では主役を務めている。
職業は漫画家。面白い作品を描くためには、命懸けの取材も厭わない性格をしているのだが、それが災して毎回とんでもない怪異と遭遇することに。その都度、彼がなんとかピンチを切り抜けられるのは、「スタンド」(実写版では「ギフト」)という異能を持っているからに他ならない。
「スタンド」の名は、「ヘブンズ・ドアー」。相手を「本」にして、記憶を読み取ったり、文章を書き込んで行動を操ったりすることができる超能力だ。
「岸辺露伴」シリーズに見る実写化の意義
まず、「密漁海岸」だが、同作での岸辺露伴は、料理人・トニオの恋人の病を治すために(あるいは、自らの好奇心を満たすために)、禁漁区に生息している伝説のアワビの「密漁」に挑むことになる。しかし、その海域には恐るべき「罠」が仕掛けられており……。
一方の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、呪われた「黒い絵」の謎を追う露伴が、忘れかけていた「青春の慕情」と再び向き合うことになる叙情的なホラー作品だ。
いずれの作品も、『ジョジョの奇妙な冒険』本編の世界観から離れ、かつ、荒木の漫画の最大の“売り”といってもいい「エネルギーの象形化」の描写を切り捨てるなど、大胆なアレンジがなされているが、それは、初見の視聴者が、いきなり「ジョジョ」の壮大なストーリーや、複雑な「スタンド」の概念を理解するのは難しいと考えられたからだろう。
そのぶん、脚本家の小林靖子によって(※)、漫画ではわかりにくい部分がかなり「補完」されている(それゆえ、「ジョジョ」を知らない人にも楽しめる作りになっている)。
※ドラマ『岸辺露伴は動かない』の第1話から第7話までと、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の脚本は小林靖子によるものだが、第8話と第9話(「密漁海岸」)の脚本は演出の渡辺一貴が書いており、小林は「脚本協力」としてクレジットされている。
また、それと同じような意味で――つまり、漫画は漫画、実写は実写という意味で、主演の高橋一生の演技も評価したい。というのも、そもそも高橋本人の見た目は、荒木が描く岸辺露伴とさほど似ているとはいい難いのだ。しかし、多くの原作ファンがすでに認めているように、画面の中で動いている高橋一生は、まぎれもない「岸辺露伴」であった。
このことは、漫画を実写化するうえでの1つの指針となるだろう。これまでにも数多くの漫画作品が実写化されてきたわけだが、そのうちの「失敗作」とされているもののほとんどは、役者が「コスプレさせられている」感じが強すぎたからだと私は思っている。あらためていうまでもなく、漫画のキャラクターとは多かれ少なかれ絵的に記号化された存在であり、それをそのまま実写に置き換えた場合、どうしてもリアリティの面で無理が生じてしまう。
では、どうすればいいのかといえば、それは、原作へのリスペクトは忘れずに、「コスプレ感」は最小限に抑え、あとは現実の役者の「個性」に任せる、というやり方だろう。
じっさい、先ごろ「初デジタル版」のリバイバル上映で話題になった『ピンポン』などは、主演の窪塚洋介が、原作の主人公(ペコ)のイメージを活かしつつも、自らの個性を惜しみなく発揮することで、映画を成功に導いた、ともいえるのではないだろうか。それと同じことが、高橋一生演じる岸辺露伴にもいえるのだと私は思う(そういえば、昨年、高橋が演じたブラック・ジャックもなかなかよかったではないか)。
いずれにせよ、「原作改変」が何かと問題視されている昨今ではあるが、かといって、「漫画そのまま」では面白みも実写化の意義もあるまい。そういう意味では、小林靖子脚本、高橋一生主演の「岸辺露伴」シリーズは、原作へのリスペクトも映像作りの自由さも兼ね備えた、「正しい実写化作品」だといえよう。
放送情報
ドラマ 『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」
[NHK総合] 2025年1月3日(金) よる11:05~翌午前0:05
『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」
出演:高橋一生、飯豊まりえ、蓮佛美沙子、Alfredo Chiarenzaほか
原作:荒木飛呂彦
脚本:渡辺一貴
脚本協力:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作・著作:NHK、NHK エンタープライズ、ピクス
写真提供=NHK
映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
[総合] 2025年1月5日(日) 午前0:10~2:09 ※土曜深夜
出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、木村文乃
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、NHK エンタープライズ、P.I.C.S.
©2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社