『呪術廻戦』芥見下々の“次回作”はヒットするか? 漫画編集者が語るその「成長」と「作家性」

 2024年12月25日に最終30巻が発売され、幕を閉じた人気漫画『呪術廻戦』。描き下ろしの「エピローグ」とともに、作者・芥見下々が創作者としての葛藤を吐露した「あとがき」も大きな話題になっている。

  過去には読者を煽るようなコメントも話題になった芥見下々だが、今回のあとがきは<私ってホントばか……>と反省の弁からスタート。読者に<ない悪意を汲まれた時>など、いまも大きな声を出したくなることはあるが、<根本は自分の漫画家としての未熟さが原因>として飲み込んでいる。漫画編集者で評論家の島田一志氏は、『呪術廻戦』の主人公・虎杖悠仁の成長が、作者自身の成長とリンクしているように感じたという。

「芥見さんは連載当初、メジャー誌での連載ということも考慮し、『呪術廻戦』という作品を読んで傷ついてしまう人を極力なくそうと考えていたと明かしています。そして、<その考えが傲慢で、創作物を世に出す覚悟が足りてなかった>と振り返っている。虎杖も初期は人を傷つけることを恐れていましたが、終盤では両面宿儺との共生すら模索するなど、清濁併せ呑む器の大きいキャラクターになりました。読者からのさまざまな声を飲み込み、大きな物語を描き切った芥見さんと重なります」(島田氏)

 <またどこかで>と締め括られたあとがきに、ファンが思いを馳せるのは次回作だ。『呪術廻戦』のプロトタイプとなった『東京都立呪術高等専門学校』(呪術廻戦 0)から、本連載にあたって主人公が乙骨憂太から虎杖悠仁に変更されたように、「呪術高専」さえあればすぐにでも新しい物語をスタートできることもあり、『ジョジョの奇妙な冒険』のように世界観を継承した新作にも期待が高まるが、心機一転、別の物語を読んでみたいというファンもいるだろう。単一のシリーズで人気博し、他の作品はなかなかヒットしない作家も少なからず存在するが、芥見下々はどうなのか。

 「“2作目のジンクス”という言葉もあり、次回作がヒットするかは分かりませんが、『呪術廻戦』には他作品のオマージュも多く、芥見さんは“漫画を読んで漫画を描く”タイプの作家だと思うので、引き出しは多いはずです。作中で漫才まで展開していましたし、アクションシーンを見るとスポーツ漫画も向いているかもしれない。『呪術廻戦』の続編を期待するファンも多いと思いますが、個人的にはまったく新しい物語を読んでみたいですね」(島田氏)

 芥見下々はその作風から、冨樫義博と比較されることも多い。島田氏はそのキャリアに準えて、次回作への期待を語る。

 「冨樫さんは『幽☆遊☆白書』(1990~94年)で一皮剥けて、『レベルE』(1995~97年)で一度マニアックな方に振り切り、『HUNTER×HUNTER』で自身が持つ前衛性とエンタメ性をいいバランスで融合させて、大ヒットさせています。芥見さんはまさに『呪術廻戦』で大ブレイクしたわけで、これは『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴さんにも言えることですが、次は『レベルE』に相当する趣味全開の物語を描く、というのも面白いかもしれません」(島田氏)

 あとがきにある<私が描く『呪術廻戦』はここで終わりです>という言葉をストレートに受け取れば、次回作はまったく別の物語になりそうだが、漫画業界全体の注目を集めるだろう新作は、いったいどんな内容になるのか。続報を待ちたい。

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