橘玲「小学生に株の話を教えてもしょうがない」 お年玉シーズンにこそ学びたい、本当に役立つ“お金持ちになる方法”
「どうしたらお金持ちになれるの?」という子どもの素朴な疑問に、大人はどのように答えるといいだろう。この問いかけを入口に、世の中の仕組みをわかりやすく、最新の知見を交えながら解説したのが『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)だ。
著者は経済や社会批評の分野で数多くのベストセラーを世に送り出してきた橘玲氏。トレードオフ、コスパ、金利・複利、限界効用の逓減といった概念を平易に解説しているが、どれもお小遣いやお手伝いなど、子どもにとって身近な事例を使ったゲーム形式でたのしく学ぶことができる。
お正月はお年玉のやりとりを通じて、子どもたちにお金について学んでもらえる絶好の機会。橘氏に、お金持ちになるために子どものうちに知っておきたいことについて聞くと、大人にとっても実践的で、目からウロコの知見の数々を伝授してくれた。(篠原諄也)
子どものシンプルな疑問に真面目に答える
ーー『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)は「子どもの頃から知りたかった!」と思えるような知識や考え方が満載です。
橘:私が「世の中の仕組みはどうなっているのか」「金融市場では何が起きているのか」と関心を持ったのは、35歳くらいの頃でした。それから自分で調べて気がついたことを、資産運用や人生設計の本で書いてきました。それをもし小学生や中学生の時に知っていたら、今頃どうなっていただろうと思ったんです。
タックスヘイヴンや海外の金融機関について本を書くようになってから、若くして成功した人たちと出会う機会が増えました。トレーディングやビジネスで大きな資産を築いた人たちです。「本を読んで面白かった」と声をかけてくれるんですが、話してみると私が30代半ばでようやく気づいたことを、高校生や、あるいは中学生の頃から当たり前のように知っていたことに驚きました。
この本では、金融、数学、統計などの基礎を、日常生活でも使えるように工夫して解説しています。すべて私自身が、若い頃にこういうことを知っていたらよかったなと思うことです。あれこれ悩んでいたことでも、仕組みがわかればシンプルに説明できることも多いんです。
ーー最近、学校での金融教育が取り沙汰されていますが、橘さんはどうご覧になっていますか。
橘:率直に言えば、小学生に株の話を教えてもしょうがないと思うんですよね。そういう知識を真剣に学ぶためには、ある種のリアリティが必要だからです。小学生が株を売買できるわけじゃないから、ほとんどの子どもたちは聞いたそばから忘れてしまうでしょう。ほんの一部の子は、ある種のゲームとして捉え、その攻略法に興味を持つかもしれません。でもほとんどの人は、社会に出て働き始めて、家庭を持って子どもができたような時に「自分の人生はこれからどうなるのだろう」とリアルに考えるわけです。だからそれを小学生に教えるのもどうかと思っていて。
ーーこの本では、日々のお小遣いやお手伝いなど、子どもにとってもリアリティを感じられる事例から学ぶことができますね。さらにそこで子どもが疑問に思っていることについて、明快な答えを与えてくれます。
橘:この本の基本的なコンセプトは、「子どものシンプルな疑問に真面目に答える」です。「どうしたらお金持ちになれるの」「なんで親の言うことを聞かないといけないの」「なんで約束を守らないといけないの」というのは、どんな親もいちどくらいは子どもに聞かれたことがあるでしょう。でも、それに答えるのは意外と難しい。親も子どもと一緒に考えてみれば、学びとなることは多いはずです。親子で対話しながら、世の中の仕組みについて話し合ってもらえたらと思います。
少ない時間コストで目標に到達できたほうが、人生をより楽しむことができる
ーーお金持ちになるためにはどうしたらいいのか。この本ではずばり「合理的に考えること」が重要だと解説しています。合理性とはどういうものですか。
橘:ゴールを設定したら、もっともコストをかけずに最短距離で到達する方法を考える発想です。金融資産1000万円を貯めることが目標なら、毎日パソコンにかじりついて、朝から夕方まで株価チャートを見ながらトレードするよりも、NISAでオルカンをクレジットカードの自動引き落としで積み立てて、無税で運用して気がつけば1000万円に到達していたほうがいいでしょう。株式投資のギャンブル性が好きという人はいるでしょうが、それに費やす時間もまたコストです。その時間資源は、恋人とのデートや趣味の推し活など、自分の好きなことに使えるわけですから、できるだけ少ない時間コストで目標に到達できたほうが、人生をより楽しむことができる。これが私の考える合理性です。
ーー子どもの頃からそうした思考法を知っていると、人生が変わってきそうです。
橘:私は幸福の土台として、金融資本(お金などの富)、人的資本(働いてお金を稼ぐ力)、社会資本(人的ネットワーク)の3つがあると考えています。その中で、特に金融資本は最も合理性が重要でしょう。賢い人たちが投資や投機に夢中になるのは、投入したお金に対してより大きなリターンを得ることを目指すというわかりやすいゲームだからです。グローバルな金融市場という巨大なカジノでは、もっとも大きな富を獲得した者が、もっとも賢いことを証明できる。これは極端に高い論理的・数学的知能を持つ人たちにとってはものすごく魅力的なゲームです。金融市場では、合理的な人たちだけが勝ち残って、無謀なギャンブルをする人たちはいずれ消えていきます。
それに対して人的資本の場合は、やりがいのある仕事のほうがお金より大事だということもあるでしょう。その意味ではすべての価値が合理性やお金で測れるわけではありませんが、それでも多くの人は、労働のコストに対してできるだけ大きな収入が得られるほうが好ましいと思うんじゃないでしょうか。