手塚治虫、ファンはなぜ短編を推すのか? “読切の名手”が描いたこの冬読みたい名作3選
■手塚治虫は読切に名作が多い
手塚治虫は日本のストーリー漫画の父といわれ、生前から“漫画の神様”と呼ばれた。生涯に描いた原稿は約15万枚といわれ、『鉄腕アトム』『リボンの騎士』『ブラック・ジャック』『火の鳥』など、数々の名作を残している。
そんな手塚だが、ファンの間では“読切の名手”としても名高いのである。手塚は長編漫画だけでなく、短編や読切を数多く執筆したが、その中には知る人ぞ知る名作が多いのだ。この冬に読んでみたい短編・読切の名作を紹介しよう。
まずは、ファンの間で人気の高い『雨降り小僧』をおすすめしたい。雨ふり小僧といじめられっ子の少年・モウ太の友情を描いたこの作品は、あの鳥山明も涙したと語るほど、涙なくしては読めない名作である。
モウ太のブーツが欲しいと話す雨降り小僧は、そのかわりにモウ太の願いを3つ叶えてあげると話す。かくして、雨降り小僧はモウ太の願いを3つ叶えてあげたが、モウ太はというと、ブーツをあげる約束を忘れてしまう。さらに、突然決まった引っ越しによって雨降り小僧のもとを離れてしまうのだった。
『るんは風の中』は学校に馴染めずに孤独な日々を送っていた豊田明が、ガード下に貼られていたポスターの女の子に恋をする物語である。ポスターを持ち帰った明は女の子に“るん”と名付け、一緒に生活を送っていた。明は妄想の中でるんと会話をする。るんは明の友人関係の悩みなどの相談に乗ってくれるのだった。
閉ざされていた明の心は、るんと触れ合う中で徐々に開かれていく。その後、明は意を決して“るん”のモデルになった女の子に会いに行こうとするのだが…という、ちょっとしたSF要素が取り込まれた恋愛物語である。
■手塚治虫は擬人化の名手でもある
『山太郎かえる』はC62型蒸気機関車の“しい六”と、人間に育てられた子熊の山太郎の友情を描いた作品である。ある日、山太郎はしい六に運ばれて山に帰ることになる。その後、山太郎は巨大な熊に成長、人を襲うようになっていた。そこで、人々は引退していたしい六を走らせて山太郎をおびき出し、捕らえようとするのだが…。
手塚治虫はなんでも擬人化してしまう擬人化の名手であるが、蒸気機関車をキャラ化してしまうのは凄いとしかいいようがない。しかも、作中では蒸気機関車と熊が普通に会話をしている。この作品はラストが感動的だが、漫画ならではの表現も堪能できる名作といえる。
この3作品は手塚ファンであれば知っている人も多い作品で、アニメ化もされている。それぞれ主人公の雰囲気から舞台、設定もだいぶ異なっているので、手塚の幅広い作風に触れることができるはずだ。
ちなみに、『ブラック・ジャック』も基本的に1話完結の読切である。手塚の読切は読後感が良い作品が多く(もちろん、何ともいえない読後感の作品もあるのだが)、スキマ時間にサクッと読めるのも魅力だ。ぜひ、この機会に手塚作品に触れてほしいと思う。