江國香織が振り返る、旅としての読書 「本を読まなければ行けない場所がある」

江國香織が語る、旅としての読書

 作家の江國香織氏の新刊『読んでばっか』(筑摩書房)には、絵本、童話から小説、エッセイ、詩、そして海外ミステリーまで、幅広いジャンルの本の書評などが収録されている。瀬戸内寂聴や佐野洋子といった親交のあった作家との忘れがたいエピソードや、自身が子供の頃に住んでいた街の追憶などを交えながら、各書籍の魅力が綴られている。江國氏にとっては、読書とは旅のようなものなのだという。そんな江國氏に、本を読むことについての思いを聞いた。(篠原諄也)

読むことと書くことは、出かけるという意味では一緒

江國香織『読んでばっか』(筑摩書房)

ーー本書は毎日新聞での書評、文庫本の解説などが収録されていますが、一冊にまとめて刊行した今のご感想を教えてください。

江國:自分が書いたものではあるんですけれど、それぞれの本が素晴らしかったので、そのよさを思い出しました。取り上げている本の力によって、いい本になっているような気がします。

ーー江國さんはやはり「読んでばっか」の生活なのでしょうか。

江國:本当にそうなんですよね。だからこのタイトルは気に入っています。読むか書くか、寝てるか飲んでるかなので(笑)。あまり現実を生きていない感じがしますね。

ーーいつもお風呂で読書をするそうですね。

江國:毎日2時間はお風呂に入るので、その間は必ず読んでいます。24歳の頃からそうなんです。23歳の1年間はアメリカに留学していたんですけど、そこではシャワーしかない生活でした。それで日本に帰ってきてから、お風呂に入ったらもう出られなくなってしまって。当時は一晩中入っていましたね。そしたらやることがないじゃないですか(笑)。だから本を読んでいました。落ち着ける場所です。

ーー本はいつも本屋さんで買うそうですが、どのように選ぶのでしょう。

江國:私にとっては洋服屋さんや雑貨屋さんと同じなんです。服や食器を見ていると、「絶対これはいいな」と思うものが見つかるじゃないですか。本も同じように、見た目で中身のよさがわかります。もちろん好きな著者の新刊は必ず買います。でも本屋さんに行って素敵なのは、そうじゃない本と出会えるところ。知らない著者なのに何か惹かれるような本と出会えるのが、醍醐味だと思っています。

ーー手触りなどの感触も大事でしょうか。

江國:そうですね。本は物体ですよね。それは著者だけの力じゃないはずなんです。物語やエッセイなどの中身を信じて、パッケージを作っている人たちがいる。だから、パッケージから中身が想像できる。どんな紙を使っているか。どんな絵が載っているのか。本の厚さはどうか、「丸背」か「角背」なのかとか。そうして中身にふさわしい装いになっている本というものが、好きなんだと思います。

ーーあとがきでは、読書と旅を重ね合わせていました。

江國:出かけていくという感じがすごくします。例えば、アメリカの小説にはアメリカの風景が出てくるし、中国の小説には中国の風景が出てきます。読んでいる間はそこに出かけている。本棚で昔読んだ本を見ていると、本当にいろんなところに行ったな、いろんな人に会ったなと感じます。

ーー本を読むことと書くことはどのようにかかわりがありますか。

江國:私の中では、読むことと書くことは、出かけるという意味では一緒ですね。書いているときも、その小説の中に出かけていく気がします。自分で物語を作っているというよりは、登場人物たちを観察して書いている感じがするので。

 ここではない場所に出かけていくところは同じですが、読むときは完全に楽しみのモードに入っています。だからちょっとモードが違って、読むほうがずっと好きです。書評を書くことが先に決まっていても、読むときには書くことは考えずに楽しませてもらっています。

ーー本書はその意味で「旅の記録」だとしていましたが、確かに読んでいると自分がまるで旅行に行っているかのような読み心地がしました。

江國:それは嬉しいです。出かけてほしいなと思います。私も出かけるのが好きなので。でもいくら実際に旅行が好きだとしても、ありとあらゆる場所には行かれません。それに本の舞台は現代とは限らない。だから、本を読まなければ行けない場所がある。そこにいながらにしていろいろなところに行かれるというのが楽しいですよね。

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