欅坂46のブレイクと“Zeppツアーの壁”ーー2017年のアイドルシーンを占う

パッケージング全体を徹底的に差別化することの重要性

 では今後、この「Zeppツアーの壁」を突破するのはどんなアイドルなのか。それはブレイク済みのアイドルと同じく、他とは徹底的に差別化されたコンセプトを持つグループだろう。

 例えば直近のブレイクの例で言えば、欅坂46の「サイレントマジョリティー」は「大人たちに支配されるな」という若者たちのレジスタンスを直球で歌い、軍服をモチーフとした衣装を身にまとい、軍隊を思わせる振り付けで一斉を風靡した(軍隊モチーフはAKBが本格的にブレイクするきっかけとなった「RIVER」でも用いられている)。また、こうしたコンテンツの強さだけでなく、全国握手会など、大所帯グループならではの戦術も踏襲した。

 とはいえ、坂道系や48系のように大所帯でありつつ、かつ質の高いコンテンツを生み出し続けるには、スタート時から高い資本力が必要となる。また例えそれができたとしても、48系などのグループに市場のシェアは既に大きく占められている。

 であるなら、大所帯ならではのシステム(人海戦術的な握手会、総選挙など)を持たない、BABYMETAL、でんぱ組.incのような、少数人数でありながら徹底的に差別化されたコンセプトを基盤に持つグループの方が、“壁”を突破する可能性が高いのではないだろうか。そしてそのコンセプトとは、単に新しい音楽ジャンルをアイドルに組み合わせればいい、というものでは、もはやない。メタル、電波ソング、ロック、HIPHOP……など、戦国時代を迎えて7年が経過し、今やアイドルにどんな音楽ジャンルをただ掛け合わせても、珍しさはなくなってしまった。音楽性のみのワンアイデアだけでは、ブレイクに到達するのは難しい。そもそも、前述のグループが秀でていたのは、音楽性だけではない。写真や衣装などのビジュアル、デザイン面、メディア出演やSNSの活用などのプロモーション、ストーリーメイクなど、ファンの目や耳に触れる全ての露出が、包括してブランディングされていたことが大きい。音楽性が優れていることは当たり前で、ロゴひとつとってもこだわり抜き、出演&活用するメディアやSNSを取捨選択し、情報の露出をコントロールする。“このアイドルでしか味わえない”という強度の高いオリジナルのコンテンツを作り続け、パッケージング全体で他のアイドルと徹底的に差別化したことで独自のファン層を獲得し、成功を収めることができたのだ。

オサカナ、TPD、わーすた…...新世代の飛躍に注目

 そういった意味で個人的に注目しているのは、ポストロックやエレクトロニカを貴重とした音楽性が特徴のsora tob sakana、結成3年で満を持して今春オリジナル曲を発表するアイドルネッサンス、モデルやラップ活動も好調な吉田凜音、90年代に活躍した初代のDNAを受け継ぐ東京パフォーマンスドール、「The World Standard(世界標準)」がテーマのわーすたの5組。中でもsora tob sakanaは、音楽性以外にも、ジュブナイルを描いた切ない世界観、VJと一体となったステージングなど、全体的なパッケージングがなされていて、独自路線を歩んでいる。4月からはメンバー4人中3人が高校生になり、さらに一般層から受け入れられやすくなっていくだろう。

 2017年、停滞気味のシーンに風穴を空けるのは、一体どのアイドルなのか。今年も数多くのアイドルたちの動向を注視していきたいと思う。

■岡島紳士(おかじま・しんし)(@ok_jm
1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に『グループアイドル進化論』、『AKB48最強考察』、『アイドル10年史』『アイドル楽曲ディスクガイド』など。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」のメインアドバイザー。アイドルカルチャーサイト&DVD「IDOL NEWSING」を運営、制作。Eチケ初の作品集「E TICKET RAP SHOW」発売中。
オフィシャルサイト

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