テクノロジーは人間の選択肢を広げ、メタバースは社会のあり方を変えるーー安野貴博×バーチャル美少女ねむ対談

2024年の東京都知事選に出馬した、AIエンジニア&起業家&SF作家の安野貴博氏。同年11月からは東京全体のDXを進める「一般財団法人GoveTech東京」のアドバイザーに就任し、「テクノロジーを通じて未来を描く」活動に向けて一層邁進している。そんな安野氏と、リアルサウンドテックで特集「【特集】アフターメタバース ~進化論のその先へ」のホストとして様々な専門家の聞き手を務め、メタバースの革命性を論じた著書『メタバース進化論』(2022年、技術評論社)で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞したVTuber(バーチャルYouTuber) / 作家 / メタバース文化エバンジェリストのバーチャル美少女ねむの対談が実現。
専門領域こそ違うものの、テクノロジーに関連する項目に詳しく、領域横断をして様々なジャンルを飛び越えてきた2名による対談は、それぞれの得意なメタバースやAIの話に始まり、テクノロジー全般に共通する価値観へとシフト。本記事ではその模様を約1万字のフルバージョンでお届けする。
■安野貴博
「テクノロジーを通じて未来を描く」活動をしてきた33歳のエンジニア&起業家&SF作家。 1990年、東京生まれ。東京都文京区育ち。33歳。エンジニア。開成高校を卒業後、東京大学工学部システム創成学科へ進学。「AI戦略会議」で座長を務める松尾豊教授の研究室を卒業。外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを経てAIスタートアップ企業を二社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。日本SF作家クラブ会員。 ●デジタル庁デジタル法制ワーキンググループ構成員 ●英国王立美術院にて準修士 ●未踏スーパークリエイター ●ハヤカワSFコンテスト受賞 ●星新一賞受賞 ●アジアデジタルアートアワード・インタラクティブ部門大賞 ●M-1グランプリ出場
■バーチャル美少女 ねむ プロフィール
日本のVTuber(バーチャルYouTuber) / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト。黎明期の仮想世界で生きる「メタバース原住民」にして、その文化を伝える「メタバース文化エバンジェリスト」として活動。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。メタバースの革命性を論じた著書『メタバース進化論』(2022年、技術評論社)で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞。国連の国際会議「IGF京都2023」でも登壇。アバター文化への貢献が認められ、一般社団法人VRMコンソーシアムよりキズナアイ以来史上二人目となる「アバターアワード2022 特別功労賞」受賞。MoguLive VTuber Award 2023では「今年最も輝いたVTuber」に選出された。
VRゴーグル自体が、脳に勘違いさせるためのデバイス

安野:昔からねむさんのことは認知していて、明らかに異彩を放っているなと思っていました。著書の「メタバース進化論」も読ませていただいています。まずはねむさんから、メタバースとはどんなものか説明していただけますか?

ねむ:私が今いるこの空間がメタバースですね。現実の私は、VRゴーグルをかぶってこの世界に没入している状態です。VRゴーグルに付いているセンサーが、私の口や目、顔の動きをリアルタイムで感知して、同じようにアバターを動かしています。加えて手とお腹、足に私の動きを読み取るセンサーをつけています。アバターを現実の身体と同じように感じる感覚が、メタバースでの体験をリアルに感じる上ですごく大事なんですよ。
安野:1日どれくらい仮想空間にいるんですか?
ねむ:昼は普通に外で働いていて、仕事が終わってからこっちの世界に来るので、だいたい4〜5時間ですかね。
安野:かなり長いですね。私もVRゴーグルを持ってますが、酔ってしまうのと首が疲れることもあって、2〜3時間が限界です。
ねむ:私もはじめの頃は酔っていましたが、今は三半規管が鍛えられました。仮想世界への慣れは大事です。先ほどのトラッキング技術も没入感を高めるためにすごく重要です。没入感が高いと、こっちのほうが居心地がよくなってきますよ。
安野:現実のねむさんの身体は、ご自宅にいらっしゃるわけですよね?
ねむ:4畳半の狭い部屋からここに入っています。でも恐ろしいことに、何ヶ月も家から出ないような生活でも、まったく閉塞感を感じないんですよ。運動不足になっちゃうので、最近は意識的に家から出るようにしてますね。本来だったら、人間は引き籠もった生活を続けていると閉塞感を感じて外に出たくなるものなんですが、VRだとその感覚が完全にハックされて、毎日外に出かけて友達と遊んでいると脳が勘違いしてしまうんです。このギャップをどう埋めていくかは、今後考えないといけないポイントです。
安野:そもそもVRゴーグル自体が、脳に勘違いさせるためのデバイスですからね。「ファントムセンス」という言葉についても詳しく教えてもらえますか?