地下アイドルとファン、“承認欲求”の行方は? 岡島紳士が姫乃たま初の単著を読む

 枕営業、整形、メンヘラ、風俗バイト、リスカ、事務所社長の愛人…。姫乃たまが9月に上梓した初の書籍『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』は、その副題通り、地下アイドルにまつわる“えげつない”話が満載だ。しかし、それはあくまで表面的な装飾に過ぎず、本質は「現在の地下アイドルそのもの」がリアルに描き出されている点にある。彼女が地下アイドルとして過ごした約6年の歳月が、そのリアリティーを裏付けている。

月に20日のライブ 収入はチェキ、物販、チケットバック

 姫乃が地下アイドルになったのは2009年、高1の頃。AKB48が『RIVER』をリリースし、アイドルが世間的に大きく盛り上がって行った時期に重なる。その後、枕営業の誘いや鬱の発症などの困難に遭いながらも、約6年、今に至るまで、彼女は地下アイドルを続けている。

 そんな立場から綴られる地下アイドルの現状は、リアルそのものだ。例えばスケジュールについて「平日か週末かを問わず、至るところで地下アイドルのライブイベントは開催されていて、(中略)月に20日ほどありました」と、その異常な濃密さを語る。さらに懐事情についても、「たいていは『チェキ(撮影は500円から1000円が相場)』を中心とする物販が中心となります」「それに次ぐ収入が『チケットバック』です。チケットバックはライブの前売り券を予約してもらうことで発生し、これまた500円から1000円くらいが相場となります」と、実際の数字を出して説明する(ちなみにこの500円から1000円に、客がお目当てとして告げたアイドル名の人数、を掛けたものが、そのアイドルにとってのチケットバック収入となる)。

 こうした収入源の内訳が分かれば、特定の地下アイドルのライブに行き、集客や物販の様子などを眺めているだけで、大体の利益が推測できるだろう。ほとんどの地下アイドルや運営にとって、大人たちが複数関わっているにしては、決して相応の利益が発生しているビジネスでないことは明らかだ。

 さらに姫乃は、次々と現れる地下アイドルたちの生態について、こう綴る。

「1年目で右も左も分からず、2年目はひたむきに頑張り、3年目で諦める」

 デビュー時にはただただ新しい環境に慣れるために足掻き、2年目にはそのルールを理解した上で夢を追い掛け、3年目に「地下から地上へとのし上がるには針の穴に糸を通す以上に難しい」という現実を知り、夢に破れて挫折する。こうした実情を端的に表した一文といえる。

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