月が綺麗じゃなくたって。の現在地 40mPらメンバーが語る新作の制作背景、ボカロP×歌い手ユニットの魅力

ボカロP×歌い手の新感覚ユニット・月が綺麗じゃなくたって。(以下、ツキレイ)の2ndシングル「Melon Soda」が4月25日にリリースされた。
2024年に開催された、ボカロシーンの一大祭典『The VOCALOID Collection』(以下、『ボカコレ』)と『歌ってみた Collection』(以下、『歌コレ』)での音楽ユニット発掘オーディション『#バズスタ オーディション』から誕生したツキレイ。ヘッドプロデューサーの40mPをはじめ、ボカロPからは雪乃イト、加賀(ネギシャワーP)、歌い手からはあられ、吉沢ぽわといった現在のシーンを牽引する話題のメンツがそれぞれ招集されており、シーンリスナーからも熱い注目を集める存在となっている。今回リリースされた「Melon Soda」は前作「ローダンセ」から一転、軽快でポップなエレクトロサウンドが非常に印象的なナンバーとなっている。
ボカロPと歌い手がそれぞれ複数人所属するという、従来のシーンでもあまり類似例のない形式がツキレイの特徴であり、ユニットとしての大きな強みとも言える。そこで今回は、ツキレイの制作スタイルや活動形式、今作「Melon Soda」の制作背景など様々な視点から彼らの魅力を紐解くメンバー全員インタビューを行った。ボカロPと歌い手各視点から見た本ユニットのユニークポイントを、5人それぞれの言葉で改めてじっくりと語ってもらった。(曽我美なつめ)
ボカロPと歌い手双方の文化を橋渡しするユニット企画の必然性(40mP)
──元々このユニットは、『ボカコレ』と『歌コレ』内で開催されていたオーディションが結成の発端なんですよね。
40mP:そうですね。『#バズスタ オーディション』という企画がまず立ち上がっていて、『ボカコレ』と『歌コレ』に参加したクリエイターの中からユニットを結成して活動していく、という枠組みは決まっていました。僕がそこにヘッドプロデューサーとして参加させてもらいつつ、今回の4人を選出してお声がけさせてもらった、という経緯になります。
──今回ユニット結成のお話をいただいた際、40mPさんは率直にどう思いましたか?
40mP:自分はこれまでにもボーカルの方とユニットを組んでコンサート形式で活動したり、近しい音楽活動をした経験もあったんですけど、何より今回一番新しいなと思ったのは“ボカロPが複数所属するユニット”という点ですよね。そこを強みや特色として押し出していけたら面白いのかな、とは当初漠然と考えていました。僕自身も企画にお声掛けいただいたいた身なので、最初から自身に何か大きなビジョンがあったというよりは、走り出してからやりたいことを探っていく形でもいいのかな、と思って。とはいえ、その中でも比較的珍しい男女ツインボーカルのユニットだと幅広い表現ができて面白そうだなとか、楽曲制作陣も広い作風の方を揃えたいな、とか。そういった構想はあったので、そこに即した方々に声を掛けていった形です。

──ちなみに、40mPさんは現在のボカロシーンを賑わせる『ボカコレ』、『歌コレ』というお祭りを、どのような認識で見られていたのでしょう。
40mP:それぞれのイベントが、ボカロPと歌い手の登竜門的な存在になっていることは常々感じてましたね。どんどん文化の中心になってるな、と。同時にずっと思っていたのは、僕もかれこれ十数年ボカロPとして活動していますけど、昔からボカロPと歌い手との間ってちょっとだけ距離があるということで。お互いボカロ曲というコンテンツに密接に関わっているはずなのに、なかなか直接的に交わる機会も少ないというか。自分で言うのもなんですが、特に歌い手さんの中にはボカロPに対して「畏れ多い」って思われている方も結構いらっしゃる印象だったんです。ただ近年は、特定のボカロPと歌い手さんのコンビユニットでの活動例もちらほら見受けられるようになって。その中で、今文化の中心地になっている『ボカコレ』と『歌コレ』から、双方の文化を橋渡しするユニット企画が登場したのは必然的というか。なるべくしてなった感覚もありますね。
──先ほどもおっしゃっていた通り、今回40mPさんはメンバー選定にも携わられています。ユニット結成に当たって、メンバーを選出したポイントはそれぞれどのような点だったんでしょうか。
40mP:ボカロPに関しては制作楽曲の幅広さを考慮して、それぞれバンドサウンドを得意とする雪乃イトさん、エレクトロを強みにする加賀(ネギシャワーP)さんにお声掛けさせてもらいました。それぞれの作風の面でも、シンプルに僕はお二人の作る曲がすごく好きで。勝手な印象なんですが、お二人の曲からは個人的に90年代の古き良きJ-POPに通ずる印象を受けていたんです。僕自身がそういう音楽で育った人間というのもありますが、お二人の曲のそういったエッセンスをお借りすることで、僕の理想とする音楽により近づけるんじゃないか、という思いがありましたね。
──個人的にも、元々40mPさんの音楽にはポップな魅力を強く感じていたので、その点との親和性もすごく感じるお話でした。続いて、歌い手のお二人に関してはいかがでしょう。
40mP:お二人に関しても男女ボーカルのみならず、大前提として歌のニュアンスもかなり個性的な方々ですよね。あられさんは突き抜けるようなパワフルな表現に長けていますし、一方のぽわさんは対照的にウィスパー的な語り掛ける歌唱が魅力だと感じていて。お二人が一緒になることで双方を補うようなバランス感もあれば、逆にあえてお二人がそれぞれ今までになかった歌唱のテイストにも挑戦して、その試行錯誤を楽しむ余地もありそうだな、と思っての選出でした。
──重ねてメンバーの皆さんにも、選出された時の心境や、参加していたイベント当時の心境について伺えれば。まずはネギシャワーさん、いかがでしょう。
加賀(ネギシャワーP):元々日常的に投稿活動は行っていたので、『ボカコレ2024冬』にもある意味普通にというか、開催と制作曲のタイミングがちょうど合致したので「じゃあ参加するか」という感覚でした。自分がオーディションに参加しているという意識もほとんどなかったんですよ。
40mP:オーディションに関しては、『ボカコレ』と『歌コレ』に投稿参加した方は勝手に、というかもれなく全員選考対象者になるシステムだったんです。なのでおそらくネギさんのみならず、皆さんオーディションに参加している意識はほとんどなかったと思いますね。
加賀(ネギシャワーP):ただ、その上で今回のユニット企画の詳細を聞いて、僕も先ほどの40mPさんと同様に珍しいメンバー構成だな、と思って。そこに新鮮さというか、面白そうだな、というのを感じました。
雪乃イト(以下、雪乃):加えて言うなら、自分の場合は中学時代に40mPさんの楽曲を聴いたりコピーしたりしていたリスナーの立場だったので、そんな方から今回こうやってお声掛けいただけたのは、なんというか……憧れに近づけた気がしてすごく嬉しかったです。あらためてボカロPとしての活動や、『ボカコレ』への参加は夢があることだな、と思いましたね。もちろん夢が叶って満足するだけじゃなく、ここから何をやっていくかが一番大事なんですけど。
──続いて、歌い手のお二人はいかがでしょう?
あられ:私はちょうど、選出いただいた『歌コレ2024春』が実はルーキー部門(初投稿から2年以内の投稿者のみ参加可能な部門)で出られるラストの回だったんです。すごく力を入れて参加した作品だったので、今回ユニット企画へのお声掛けをいただいた時は、イベントのランキング内だけでなく思わぬ方向から認めてもらえたことへの嬉しさがありました。
吉沢ぽわ(以下、吉沢):自分も毎回『歌コレ』の時はとにかくランキングで上に行きたいっていう一心で力を入れた動画を作っていました。今回の企画みたいに、ランキング以外からでもほかのことに繋がっていくんだとか、歌い手の中で上を目指していたら想像以上に歌い手以外の人も見てくれてたんだ、みたいな。そういうことを実感できて面白かったです。