三兄弟バンド・Gliiicoが語るライフストーリー 序章となる1stEP『The Oath』、最高の音楽を届ける“誓い”

カナダ発三兄弟バンド・Gliiicoとは

 日本とフィリピンにルーツを持つ、カナダ・バンクーバー出身のバンド・Gliiico。2022年から東京をベースに活動を続ける彼らは、この3年ほどの間に日本国内だけでなく、海外でも着実にそのプレゼンスを広げている。ファッションのシーンでモデルとしても活躍するKai、Kio、そして、音楽プロデューサーとして世界を股にかけてキャリアを積んできたNicoの三兄弟は、バンドの可能性を信じ、まだ誰も聴いたことのないポップミュージックを模索し続けている。2月28日にリリースされた1stEP『The Oath (Deluxe)』は、そんな彼らがこれから始まるGliiicoのストーリーの序章で、リスナーに捧げた“最高の音楽を届ける”という「誓い(Oath)」そのもの。バンド結成までのライフストーリーを紐解きつつ、彼らが目指す“スケールの大きな未来”について話を聞いた。(小田部仁)

日本、フィリピン、カナダ……様々な要素が重なり合うルーツ

ーーNicoさん、Kaiさん、Kioさんは三兄弟。カナダ・バンクーバー出身で日本とフィリピンにルーツを持っているとのことですが、まずは幼少期のことを少しお話を伺いたくて。子どもの頃の夢は何でしたか?

Kio:スパイダーマンになりたかった(笑)。子どもだったらみんな誰でも一度は憧れると思うけど。ヒーローになりたかったんだよね。

Kai:プロのサッカー選手かな。カナダではアイスホッケーが主流なんだけど、道具とかを揃えるのにお金がかかってやるのにハードルが高いんだよね。サッカーはボールさえあればできるから。今でもやるのも見るのも大好き。

Nico:俺は脳外科医になりたかった。父方の家族に医療関係の人が多くて、自分もその道に進みたかったんだよね。でも、手先が震えやすいから諦めて……音楽やろうかなって。キャリアチェンジしました(笑)。

Gliiico

ーー皆さん、音楽家とかバンドマンではなかったんですね。ちなみに、今の自分を形作っているカルチャーを教えていただきたくて。音楽でも、映画でも、文学でも、スポーツでも何でも。

Kio:いい質問だね。うーん、なんだろう……今、パッと思いついたのは『BEN 10』(カートゥーン・ネットワークで放送されていたアメリカのアニメ)かな? “オムニトリックス”っていう腕時計型のデバイスで10種類のエイリアンヒーローに変身できるんだよ。あとは『犬夜叉』。ロングヘアで和服を着てでかい刀を振り回す、主人公がカッコいいなって思ってた。

Kai:3人とも習ってたけど、極真空手かな。空手をやり始めてから、モノの見方がすごく変わったし、規律を守ることの大切さを学んだ。自分を律することは生きていく上で大切なことだからね。

Nico:年齢を重ねるごとに大切に思うようになったのは、食文化かな。うちのお母さんのご飯がすごく美味しかったんだってことが、大人になってからわかるようになって。自分でも料理は好きでよくする。瞑想みたいで、すごく楽しいんだ。子どもの頃は、フィリピン系の家族に囲まれて育ったから、おばあちゃんが作るパンシット(焼きそばに似た料理)やパラボック(春雨にあんかけをかけた料理)みたいなフィリピン料理も思い出深い。感謝祭やクリスマス、イースターみたいな特別な日には、必ず大きなディナーがあって、いつも30人ぐらいが集まって食卓を囲んでいたんだ。

Nico
Nico

ーーNicoさんは日本で生まれたそうですね。来日して、一番驚いたことってなんでしたか?

Nico:あのさ……古着屋さんとか古道具屋に行くと、A・B・Cみたいに商品の状態がランクづけされてるじゃない? アメリカのeBAYでCクラスのTシャツとか買うと「え? 何これ、ボロ布?」みたいな酷い状態のものが届くんだよ。でも、日本だと「C」でも全然、普通に着れるじゃんってぐらい、いいものが買える。これには驚いたね。だからいつもヤフオクやメルカリ、ハードオフとかで服や楽器、時には冷蔵庫まで探してる。

Kio:アメリカとかカナダに住んでたら、絶対に中古の冷蔵庫なんて買わない。ゴキブリとか謎の虫がいる可能性が高いもん。たとえ完璧に動いたとしても、かなり怪しい……。でも、日本だったら何でも中古で買ってOKだよね。日本のリサイクルショップは本当に素晴らしいよ。暇な時には三人で遠くの店までわざわざ足を伸ばして、ハンティングに出かけるんだ。

Kai
Kai

ーー日本とフィリピン、そしてカナダと様々な要素が重なり合って、お三方のオリジナルなルーツになっているんですね。ここからは、Gliiicoの結成前夜を軽く振り返りたいんですけど、まずKioさんとKaiさんが2019年に故郷のバンクーバーを離れて日本に来たそうですね。何か夢とか具体的な目標があって来日したんでしょうか?

Kai:僕が最初に日本に来たんだけど、三兄弟の真ん中ってこともあって、カナダにいた時からずっと「とにかくどこか遠くに行きたい」って思ってたんだよ。高校時代の日記にも目標として「遠くに行く」って書いてたぐらい。だから、高校を卒業した後に地元の倉庫で働いて、お金を貯めて日本に来た。で、ファッション業界に関わるようになって、東京はすごく面白くてチャンスのある場所だってことに気づいて、すぐにKioに電話したんだ。Kioはモデルとして冗談抜きで最強だと思ってたし、才能を無駄にしてほしくないって思ってたから。日本はお互いを尊重する文化が根付いている場所だから、西洋的な「俺の方がすごいぜ」みたいな意地の張り合いみたいなことをしなくていいところも素晴らしいと思ったんだよね。

Kio:嬉しいな(笑)。当時、僕はバンクーバーでモデルの仕事をしていたんだけど、やっぱりLAやニューヨークとかとは違って、やれることに限界があって。日本のパスポートは持っていたし、いつかは東京に行きたいとは思ってたんだけど、きっかけがなかった。そこにKaiが電話をくれたから、じゃあ行ってみようかって思って飛行機に飛び乗ったんだ。とりあえず、その時の目標は、東京のファッションの世界でクールな存在になることだった。でも、音楽もやってみたいとは思っていたよ。ただ、どうやって音楽業界に足を踏み入れればいいのかわからなかったんだよね。

Kio
Kio

ーーその後、2020年頃に音楽業に携わっていたNicoさんがやってきて、3人でGliiicoを結成することになると。プロデューサーとしては、LAをベースに活動していたそうですが、そもそもなぜ地元・バンクーバーを離れたんですか?

Nico:さっきKaiが言ってたけど、20代前半ぐらいになると、突然「もうここにはいられない!」って思う時が誰しもくるんだよ。それって家族とか友達のせいじゃなくて、一度“ここ”を離れないと自分が自分になれないって気づくんだ。で、ずっと音楽が好きだったから、最初は音楽スタジオでインターンを始めたんだ。トイレ掃除したり、ケーブルを巻いたり、基本的な仕事ばっかり。でも、そのうちソングライターやプロデューサー、エンジニアとしてもレーベルと仕事ができるようになっていったんだよね。ただ、音楽を本気でやるにはLAに行くしかないってことは早い段階でわかってたから、その時、付き合ってた彼女と一緒に引っ越して3年ぐらい住んでた。結局、別れちゃったけど。

ーーそうだったんですね。その後は、LAをベースに活動を?

Nico:いや、俺はカナダ人だから、アメリカに滞在するためにはアーティストビザが必要だったんだよね。その手続きを進めてたんだけど、とにかく申請にお金がかかる。すでに3、4000ドルぐらい使ってたし、最終的には1万ドルぐらいかかる見込みだった。しかも、途中でコロナ禍になっちゃったもんだから、ビザの発行のプロセスもストップしちゃって。その時に「もうLAに戻るのは無理だな」って腹を括ったんだ。

ーーそうだったんですね。

Nico:幸いなことに楽曲提供の仕事もいくつかレーベルから取れたし、KaiもKioも東京に住んでるわけだから、行ってみたら面白いかもって思って、試しに2カ月ぐらい滞在してみたんだよね。そしたら、すごく楽しくて刺激的で。その時はコロナ禍も終わりが見えなかったし、LAに戻れないんだったら、東京に住んで音楽を作ればいいな……って思って、住み始めた感じ。最初はせいぜい3年ぐらいかなって、思ってたけど気がついたら、もうこんなに時間が経ってた。兄弟でバンドまで始めちゃったし(笑)。

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