2018年ドラマ評論家座談会【前編】 『獣になれない私たち』野木亜紀子ら女性脚本家飛躍の1年
2018年も、各局から多種多様なTVドラマが放送された。リアルサウンド映画部では、1年を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、横川良明氏を迎えて、座談会を開催。前編では、脚本家・野木亜紀子が発表したオリジナル作品3本や、視聴率は振るわずとも熱い支持を得た『中学聖日記』などの作品を参照しながら、2018年的なドラマの作り方について話し合った。
なお、後日公開予定の後編では、今年大ブレイクを果たした田中圭の魅力や今後期待の俳優・女優たち、そしてNHK朝ドラについて語っている。
2018年は“野木亜紀子の年”
ーーまずはみなさん、今年のドラマベスト1を教えてもらえますか。
成馬零一(以下、成馬):今年はWEBで配信されたドラマが面白かったです。YouTubeで配信された『放課後ソーダ日和』が1位で、Netflixの『宇宙を駆けるよだか』が2位。以降は地上波で、3位が『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)、4位が『透明なゆりかご』、5位『おっさんずラブ』です。地上波だけで言うなら、今年は野木さんの年でしたね。『アンナチュラル』『フェイクニュース』『けもなれ』どれも素晴らしかった。
横川良明(以下、横川):自分自身が熱狂したという意味では、やはり『おっさんずラブ』です。7話という短い時間の中で、あれだけの人を動かしたエネルギーというのはすごいですよね。一方で、作品としての完成度やシナリオの高さでいえば『アンナチュラル』が優れていたんじゃないかなと。1話も破綻することなく、最後まで一本のストーリーの軸があって、キャラクターも鮮やかでした。
西森路代(以下、西森):私も野木さん作品は外せません。3作品とも好きですが、人間関係の細やかさや、シスターフッドとしての見応えという点では、やっぱり『けもなれ』ですね。恋愛モノなのかなと思わせつつ、中盤、どの女性たちもいがみ合わないーー京谷(田中圭)をめぐる元カノと彼女とか、お母さんと彼女とか、恒星(松田龍平)の方の元カノとの関係、普通だったら仲良くならない人たちが関係を築いていく展開がよかったです。朱里(黒木華)が出てきた時に、「晶(新垣結衣)と同じ立場だな」と思ったんですよね。派遣をやってたり、同じ人に惹かれたりして、この人たちはいつかきっと交わることになるし、同じ人の裏と表だと。一番今の気分にぴったりくる作品でした。
ーーみなさん、今年は野木さんの年だったということですね。
成馬:個人的な印象で言うと『アンナチュラル』と、『フェイクニュース』『けもなれ』は少し違うんですよ。『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』までの社会派エンターテインメント作品をきっちりと作る職業脚本家としての野木亜紀子のバランス感覚でいうと、『アンナチュラル』は完成度の高い仕上がりだったけど、『フェイクニュース』と『けもなれ』はそのバランスが少し崩れていて、それと引き換えに野木さんの作家性が強く出ている。だからこそ敷居が高く、視聴者との齟齬も生まれてしまった。教科書的な意味で、『逃げ恥』と『アンナチュラル』は素晴らしい。『逃げ恥』は、恋愛ドラマを更新したし、『アンナチュラル』は職業ドラマの枠を広げたと思います。一方で『フェイクニュース』と『けもなれ』には、野木さんの作家性みたいなものが色濃く見えて面白かったので、個人的には、この2作を評価したいです。
横川:なるほど。確かに僕は野木さんの作家性が強く出ているがゆえに、『フェイクニュース』と『けもなれ』には正直あまり熱狂できなかった感覚があります。
西森:確かに、野木さんの考えていることがオリジナルになったことで、より明確に出るようになったと思います。私は、テーマ設定がある作品が好きな方なので、今年の野木さんの作品も、後になればなるほど、つまり『けもなれ』が一番好きだったりはします。
成馬:『けもなれ』は、野木さんがヤングシナリオ大賞でデビューした『さよならロビンソンクルーソー』のセルフリメイク的な作品だと思うんですよね。この作品は、田中圭と菊地凛子がW主演で、物語も少し似ています。だから一種の原点回帰なのではないかと。
西森:『けもなれ』は“ラブかもしれないストーリー”でありつつも、野木さんは働いてるリアルを入れたいという思いもあったのではないでしょうか。私も15年くらい前なんですけど、派遣で働いた時期がありますが、辞めたあとに「女性が職場でがいがみ合うことがあるとしたら、それは女性たちの資質の問題ではなくて、制度の問題なんだ」と言われたことがあって、初めてそれに気づきました。女性でも、正社員、契約、派遣とあって、それぞれに給与体系や待遇の差があるし、その中で、派遣だけ朝のコーヒーを入れる当番、しかもそれは業務外で、やらされてるのではなくて、派遣たちの意志でやってますよ、みたいな慣習かもあって。そういうものから生まれる歪みが、女子同士の関係性に影響を及ぼす。野木さんも、世代的にそういう光景を見てると思うので、そこがとてもリアルでした。