2018年ドラマ評論家座談会【前編】 『獣になれない私たち』野木亜紀子ら女性脚本家飛躍の1年

2018年ドラマ評論家座談会【前編】

『中学聖日記』は、“2人の恋を応援したい”という楽しみ方に

ーー野木さんの他にも、今年は女性の脚本家が活躍した年だったと思います。

西森:私は『女子的生活』の坂口理子さんに注目しています。映画でも『かぐや姫の物語』や『恋は雨上がりのように』を手がけている方です。個人的に、野木さんと坂口さんは今すごく信頼しています。2人とも同世代なんですよね。

横川:脚本家ではないですが、クリエイターでいうと、『アンナチュラル』や『中学聖日記』の演出の塚原あゆ子さんは今年すごく良かったと思います。

成馬:『中学聖日記』は演出がよかったですよね。風景の切り取り方に叙情性があって、島に行くシーンは最高でしたね。岩井俊二的なものを感じます。

西森:抒情性、わかります。中盤で自転車を乗って追いかける時の、黒岩くん(岡田健史)の表情だけで泣けました。

『中学聖日記』(c)TBS

横川:僕は10月クールはだんとつで『中学聖日記』に夢中になりましたね。『おっさんずラブ』が顕著ですが、今年は制作側が視聴者側の熱を押し上げてることで相乗効果が生まれた年でもあったのかなと。市井の人たちが、今これが面白いんだ、っていうのがSNSを通して盛り上がっていく。脚本や演出の出来だけでなく、この1時間のパッケージの中で、私たちを夢中にさせてくれたものとして、僕は評価したいですね。聖と晶の2人の恋が主軸にあって、離れ離れになるシーンは視聴者がもだえて、一緒になる時に爆発する。ラブストーリーにおいて、この2人の恋を応援したいというのは何より大事な要素だし、そこを非常に高い純度でやり切れていたと思います。

成馬:『中学聖日記』は、ネットのニュースを見ていると「淫行けしからん」みたいな批判が多かった印象ですけど、実際はどういう反応だったのでしょうか? あの恋愛をみんな良しとして見ていたのか否定的だったのかが、よくわからないんですよね。90年代の“教師と生徒の禁断の恋”といえば、『高校教師』と『魔女の条件』がありますが、この2作は社会に居場所のない男女が社会に背を向けて逃亡する行為として禁断の愛というものがあったと思います。対して『中学聖日記』はもっと地に足がついていて、社会の側から物語を見ていたと思うんですよね。『青い鳥』も含めて、本作は今や古典とも言える90年代のTBSドラマを参考にしてると思うんですけど、もしも途中であの二人が肉体関係を持っていたら、視聴者はどう感じたのか? そのあたりを気にしながら観てましたね。

横川:たぶん別に求めてはないと思っていて。そういうところは、自分たちの想像で勝手に補完するからっていうのが今の視聴者感覚かなと。むしろ、90年代と違って面白いと思ったのは、晶の母・愛子(夏川結衣)のキャラクターです。『黄昏流星群』で麻生祐未が、自分と同い年ぐらいの息子の恋人に塩を撒いたり、『あなたのことはそれほど』の東出昌大がワインぶち撒いたり。そういう「釣り」を設けることで、いくらでも視聴率を上げやすいことができるんですが、夏川結衣は一貫して、ある一定の倫理観を保って、そこから出てこない。僕はそこに、2018年的な志を感じて素敵だなと思いました。実際、人ってそんなに狂えないし、下品になれない。逆に言うと、聖と晶以外の部分では、あまりドラマが広がらないから、2人がくっついたり離れたりしていたというのもあると思いますが。ひとつ思うのは、あまり最初に「禁断」って押し出さないほうがよかったと思うんですよね。その言葉のチープさと、実際の映像の美しさや物語の精度において、入り口と中身が食い違っていたのはもったいなかったな、と。

ーー成馬さんが注目する脚本家はいますか?

成馬:『透明なゆりかご』の安達奈緒子さんですね。NHKじゃないと絶対に作れなかった凄いドラマだと思います。間口はそんなに広くないですが、響いてる人にはとても響いていた。安達さんは『大切なことはすべて君が教えてくれた』や『リッチマン、プアウーマン』といった月9のドラマを書いていたのですが、当時から高い作家性を見せていたのですが、なかなか作家としては認識されてなかったんですよね。『透明なゆりかど』で、やっと作家としてのすごさが世間に認知されたのではないかと思います。

※後編に続く

(取材・文=若田悠希)

■作品情報
『獣になれない私たち』
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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