香取慎吾が演じきった“最高男” 『日本一の最低男』最終回は人を動かすための“物語”に

大江戸区長選挙に立候補した一平(香取慎吾)は、暴露系動画配信者となったテレビ局時代の後輩・野上(ヘイテツ)との生配信の中で、現職の長谷川(堺正章)のパワハラ動画を公にする。世間からの追及を受けた長谷川は報道陣の前で倒れ込み、黒岩(橋本じゅん)はさまざまな“仕込み”を駆使して世論を一平叩きの方向へと持っていく。そして長谷川が辞退し、後継指名として黒岩が出馬することになると、今度は一平の矛先は黒岩へと向けられていく。ドラマのクライマックスを担う選挙戦が、現実にどこかの選挙でも起きていそうな泥仕合へと発展した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)は、3月20日に最終回を迎えた。
※本稿は最終回の結末に触れています
このように終盤を選挙戦で運ぶとなれば、定石として考えられる結末のパターンは大きくふたつに分けられるだろう。一平が区長選に当選して万々歳となるか、区長選には落選したけれど正助(志尊淳)たち家族が温かく迎え入れてくれ、みんなで仲良く暮らす“ホームドラマ”として幕を下ろすか。どちらかといえば後者に近い結末が選ばれたとはいえ、そこまでの過程にかなり興味深い一捻りが加えられる。その点で、このドラマの脚本陣(この最終回は蛭田直美と大石哲也の名前がクレジットされている)がいかに盤石かがよくわかる。

それはいわずもがな、黒岩の議員秘書をしていた真壁(安田顕)が黒岩陣営の手伝いをすることを断り、“第3の候補”として区長選に出馬するというどんでん返しに、さらにもう一回どんでん返しを重ねる展開に他ならない。「いちばん好きな自分でいられるまちに」という、かつて一平が高校の生徒会選挙で掲げた公約を、その時当選した真壁がパクり、ほとんど道化のように選挙戦を混乱させていく一平に対し、穏やかなトーンで区民の指示を得ていく真壁。しかしそれは、本気で街を変えようとした両者が『泣いた赤鬼』を参考にして仕組んだ作戦――人を動かすための“物語”だったのである。