『ウィキッド ふたりの魔女』“やさしいギャル”を演じ切ったアリアナ・グランデに拍手!

『ウィキッド ふたりの魔女』(2024年)は、虐げられてきた人物が、巨大な理不尽に対して立ち上がる姿を描いた作品だ。そのカタルシスも見事。美術も恐らくとんでもない金がかかっているとひと目で分かるほどゴージャスで、信じられないくらい上手い歌も浴びることができる。しかし筆者的には、とてつもなく絶妙なバランスで“やさしいギャル”を描き切った点にスタンディングオベーションを送りたい。ありがとう、アリアナ・グランデ。彼女の好演は、このタイプのキャラの金字塔になるかもしれない。
物語の舞台は、魔法で世界が回っているオズの国。ロクでなし両親のもとで育ったエルファバ(シンシア・エリヴォ)は、生まれつき緑の肌と強大な魔力を持っていた。そのため周囲はおろか両親からも疎まれ、不遇を絵に描いたような生活を送っている。ある日、エルファバは妹の付き添いで魔法学校のシズ大学へ行くことに。彼女はそこで、絵に描いたような陽気&元気爆発のグリンダ(アリアナ・グランデ)と出会う。ひと騒動あった末に、エルファバはその魔法の才能をモリブル教授(ミシェル・ヨー)に認められ、妹と一緒にシズ大学に入ることになる。しかし何の因果か、エルファバはグリンダのルームメイトになってしまい……。
ド派手なミュージカルシーンが連発するものの、物語は驚くほど丁寧かつ細かく、エルファバとグリンダの友情が成立する過程を描いていく。エルファバは、その出自ゆえに陰の者としての生き方が体に染みついている。強気で棘のある言葉遣いで周囲と距離を取り、しかしどこかで嫌な目に遭うのは自分のせいだと受け入れてしまっている。そして緑の肌のせいで、大学でも周りから嘲笑され、避けられてしまう。一方のグリンダは、シンプルに自分最高な典型的ギャル気質だ。魔法の才能はないが、とにかく華やかで、目立って、人気者である。さらに人気取りのためなら、その場しのぎのテキトーな行動に出ることも。もちろんテキトーなので、周りの人を無自覚にバンバカ傷つけてしまうのだった。
そんなふたりなので、当初はもちろん反目し合う。お互いに何もかもが気に入らない。しかし、いくつかの事件を経験しながら、徐々にふたりの距離は近づいていくわけで……。私が感心したのは、ここでのグリンダのギリギリのキャラクター性だ。彼女は生徒のヒエラルキーの頂点に立つ女子生徒(いわゆるクイーンビー)であり、自分第一で動く姿勢は、そこに正座しなさいと思う瞬間も多々ある。しかし、人間としての善性が根底にあるのと、あまりにもポリシーが一貫しているので、「そういう人」として許せてしまうのだ。絵に描いたような偽善を発揮していた彼女が、エルファバの過去を知ったときに見せる表情には、絶対的な善性がある。それでいて「人気者になろう!」とエルファバにあれこれ着飾るように促すシーンのポジティブさとキラキラ感よ。
数々の名曲があったが、個人的には「ポピュラー」は“やさしいギャル”のアンセムとして語り継がれる名シーンであったと思う。周囲から持ち上げられているし、ポジションは間違いなくクイーンビーなのだが、実質的には「お調子者」という表現が近い。ある意味で女性版の柳沢慎吾というか、さっさと寝たいときなどはウザったくもあるが(『ウンナンの気分は上々。』で見たやつです)、友達になったら確実に人生が楽しくなるタイプである。だからこそ、最後の決断も光り輝く。意地悪で自分本位。良いところも悪いとこともある。しかし、それだけではない。そんな非常に多面的で魅力的な“やさしいギャル”を演じ切ったアリアナ・グランデ、やはり只者ではない。