津田健次郎が考える、事件を“物語”として伝える意義 主演ドラマ『1995』に込めた思い

津田健次郎が主演を務めるドラマ『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』が、3月21日21時よりフジテレビ系で放送される。本作は、1995年3月20日に発生した「地下鉄サリン事件」を題材にしたドキュメンタリードラマで、津田は実際に患者の救急救命にあたった医師を演じる。「物語として描くことで、より多くの人に届くのではないかと思います」と語る津田は、事件から30年を経た今、改めてこの事件に向き合う意義についてどのように感じているのか。さらに、当時の記憶や撮影を通じての新たな気付き、そして次々と出演作を重ねる津田の原動力についても深く掘り下げて話を聞いた。
医師役の難しさは「医療行為をしながら会話を成立させること」

――国井桂さんの台本を読んだ際の率直な感想を教えてください。
津田健次郎(以下、津田):救命救急センター長、看護師、日比谷線の運転士など、さまざまな視点で事件を描き、それが同時進行で進んでいく構成がとても緊迫感がありました。追い込まれていく感覚が強く伝わってきました。
――地下鉄サリン事件について、ご自身の記憶に残っていることはありますか?
津田:当時、私は丸の内沿線に住んでいたんです。朝、ニュースを見ないまま外出し、舞台の稽古に向かおうとしたら、駅が閉鎖されていて……。空にはヘリコプターが何機も飛んでいて、ただならぬ雰囲気だったのを覚えています。仕事先に連絡したら、「今日は難しいですね」と言われ、家に戻ってテレビをつけたら、大変なことが起きていることを知りました。その日のことは今でも鮮明に覚えています。私が住んでいた場所の商店街には、事件が起こる前からオウム真理教の支部のようなものがあったらしく、まさかこんなに身近で、あのような事件が起こるとは思いもしませんでした。
――剣木達彦役を通して、新たな気づきはありましたか?
津田:事件が起きた当時も、その後も、村上春樹さんの文章などを通して触れてきました。興味というと少し違うかもしれませんが、知ろうとしてきた部分ではあって。ただ、医療の視点での情報はあまり出ていなかったなと。今回、剣木を演じることになり、当時はこんな状況だったんだと知らなかったことがすごく多かったです。

――実在の医師がモデルになっていますが、役作りのためにどのような準備をされましたか?
津田:撮影に入るまでの時間があまりなかったので、やりたいことはいろいろありましたが、まずは資料映像をしっかり確認することを優先しました。特に今回は医者という役職だったので、地下鉄サリン事件の関連映像の中でも、医師たちが患者をストレッチャーで搬送している場面などを何度も見返し、動作や会話の様子を細かく観察していました。どんな動きをしているのか、何を話しているのかを中心に見ていましたね。あとは、撮影現場に医療監修の先生がいらっしゃったので、この場合どう動くべきか、何度も質問を重ねていました。
――資料映像をご覧になった中で、特に印象に残ったことはありますか?
津田:患者さんの症状に幅があることですね。意識を失っている方もいれば、軽度で目の痛みを訴える方もいて、それぞれの状態の違いが印象的でした。特に、意識を失っている患者さんの姿は衝撃的で、当時の医療スタッフの大変さを改めて実感しました。

――実在の人物を演じるにあたって感じた難しさはどのように乗り越えましたか?
津田:今回の作品はドキュメンタリーを基にしたドラマなので、プロデューサーや監督から「この時はこうおっしゃっていました」といった話を聞きながら役を作っていきました。お医者さんの葛藤や大変さがどこに表れるのかを台本を通じて考え、間接的ではありますが、参考にさせていただきました。
――医療用語や、医師ならではの長いセリフについて、台本の面で特に難しかった点は?
津田:専門用語が次々に出てくるのですが、それ以上に難しかったのは、医療行為をしながら会話を成立させることでした。剣木にとっても初めての経験で、前例のない状況に直面し、現場は大混乱している。それでも救命救急センター長として、どんな状況でも冷静でなければならない。そのバランスを取るのに苦労しました。そこは監督と相談しながら、最適な表現を模索していきました。

――30年経った今、改めてこの事件に向き合う意義についてどのように考えているのか教えてください。
津田:事件はもちろん衝撃的でしたが、そもそも当時の社会が抱えていた根本的な問題は何だったのか。そして、それは今の社会で解消されているのか……。バブル崩壊後の日本が抱えていた空虚感のようなものは、むしろ今の時代により深く根付いているのではないかと感じる部分もあります。それは、僕自身がこの時代を生きてきた中で抱えている感覚とも重なるんです。そうした問いを改めてドキュメンタリーをベースにしたドラマとして世の中に投げかけることには、大きな意義があると思います。特に、30年経った今では当時の事件を知らない若い世代も多いので、これをきっかけに一緒に考えることができたらいいなと思います。