なぜ田中圭にモヤモヤし、松田龍平に惹かれるのか 『けもなれ』正反対の男性が描かれる意図
『獣になれない私たち』(日本テレビ系)は、松田龍平演じる恒星と、田中圭演じる京谷のふたりの男性が正反対で興味深い。それは、単に見た感じの雰囲気や職業というだけでなく、考え方のベースなどにも及んでいるように思う。
恒星は、ヒロインの深海晶(新垣結衣)とクラフトバー「5tap」で初めて会ったとき(実際にはその前にも出会っていたが)、「気持ち悪い」と言い放ち、晶からの質問にも出まかせの回答をする。5tapで出会った女性に声をかけ適当に持ち帰り、そのことを覚えていないどころか、行為の最中に寝てしまうような人物だ。
対して京谷は常識人で、デベロッパーの仕事も順調。晶が同じ会社の派遣社員時代、飲み会で社員たちのお酒をせっせと作っていたら、そのことに気づくことができるし、共に仕事に取り組んだ結果、契約が取れたときも、晶の尽力があったからこそだということを部署の皆に伝えることもできる。
ドラマ前半の部分では、恒星と京谷を見れば、京谷のほうが好青年に見えるのは間違いないだろう。しかし、ドラマを重ねるごとに、ときおり恒星の本音が心地よく、京谷から漏れ出る本音に疑問がわく瞬間が出てくるのだ。
京谷は、5tapで見かけたモデルでデザイナーの呉羽(菊地凛子)の攻めた服装を見て「あれ好きな男、そういなくない?」と語る。またある日は晶が京谷に対して、胸の内を明らかにして強めに反論すると、「今の晶は可愛くない」とまるで、自分のやっていることのほうが正論のように晶を攻める。ごくありふれた会話にも思えるが、モヤモヤする人が多かったのは、「かわいくない」という言葉に、「自分の気に入る態度ではないから改めろ」という気持ちが隠れているからだ。
これらの言動は、「女性は男性を喜ばせるために存在してほしい」と無意識で思っているからであり、京谷のような考え方の男性は、世の中にもごまんと存在していると言えるだろう。それは、晶の同僚・上野(犬飼貴丈)の言う「深海さんは笑ってるほうがいいなって」という言葉がそれを(大多数の男性の意見を)表している。
また、京谷は元彼女である朱里(黒木華)を長年にわたって家に住まわせていて、そのことで晶との関係性もぎくしゃくしている。この行為も、一見、優しいことのように見えて、人が前に進む気持ちに知らず知らずに歯止めをかけているようにも見える。
外側から見たら、なんら悪いところがないように見えるが、時折「え? 今のはなに?」と思わせる京谷。そんな京谷と真逆で、一見最悪なのに、「あれ? いい人なのかも?」と思わせるのが恒星だと言ってもいいだろう。
例えば、粉飾した書類に判を押してほしいとやってきた依頼者に対して恒星はこんなことを言う。
「俺はね、相応な人間なんで、背負えないものは背負わないし、口先だけで大丈夫なんとかなるとかいってるやつが一番嫌いなんだよ、同情で引き受けて裁判沙汰になっても責任とれるんですか」
この言葉も一見、冷たいようにも見るが、まっとうな発言だ。また、この言葉は、京谷の状態を表しているようにも思える。京谷は、彼女でもなくなった朱里を、同情から(本人はそうとは気づいていないだろうが)ずっと家に住まわせることで背負えないのに背負ってきたし、晶に対しても、ぼんやりと責任を感じているところも、朱里との現状を無視して、「口先だけで大丈夫」と言っていることに重なる。また、そんなさ中に呉羽とも一夜をともにしてしまうのだ。ただそれは、当初の晶がそうであったように、笑顔でなんでも引き受けてしまうような性質があるからこそだろう。