髙石あかりが『御上先生』でみせた“目の演技” 『ベビわる』とは異なる“静”の表現に注目

髙石あかりが『御上先生』でみせた静の表現

 日本の劇映画において、近年、目覚ましい活躍を見せている若手俳優のひとりが髙石あかりである。数々の作品で印象的な存在感を放ち、その演技力に対する注目度は増すばかり。特に、2025年度後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』でのヒロイン抜擢は、彼女のキャリアにおける大きな飛躍となるだろう。そんな髙石が現在放送中のドラマ『御上先生』(TBS系)でキーパーソンとして浮上してきた。これまで出演者に名を連ねながらも、中々出演シーンが訪れなかったが、最終回直前になってその存在感を高めている。

 髙石という俳優の魅力を語る上で、まず触れておくべきは、彼女の持つ圧倒的な適応力だろう。その才能は、出演作を振り返るだけでも明らかだ。2021年に公開された映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズでは、伊澤彩織とのW主演を務め、普段はどこにでもいるような女子高生でありながら、裏の顔は凄腕の殺し屋という、2つの異なる顔を持つ杉本ちさとを見事に演じ分けた。ヘラヘラした日常から一瞬で冷徹な殺し屋に豹変する鮮やかな切り替えは、彼女の演技の最大の魅力のひとつであり、激しいアクションシーンの中に巧みなコミカルさを織り交ぜることで、作品全体に緩急を生み出していた。特に、笑顔の裏に隠された冷酷さや、ふとした瞬間に見せる憂いを帯びた表情は、彼女の演技の豊かさを感じさせる素晴らしいものだった。本シリーズでの彼女の演技は、アクション女優としての可能性を示すと同時に、コメディセンスも持ち合わせていることを証明したと言えるだろう。

 さらに注目を集めたのが手塚治虫の原作を現代的に解釈したドラマ『アポロの歌』(MBS・TBS)である。佐藤勝利(timelesz)とW主演を務め、髙石の演じる渡ひろみは、主人公・昭吾が転生するすべての時代に現れる重要な役どころであり、時代ごとに異なる三役を演じ分けるという難しい挑戦に取り組んだ。世界に応じて声色や話し方を変える緻密な役作りを通して、彼女の演技の奥行きと多様性を再確認させることとなった。

 一方、クライマックスを迎えている『御上先生』では、千木良遥という真面目で控えめな性格の女子高生を演じている。成績優秀で友達思いでありながらも、多数派に同調しがちな一面を持つ、等身大の高校生の姿を繊細に表現した。序盤は出番がほとんどなかったが、物語が進むにつれて、彼女の父親が政治家であることが明らかになり、最終回直前で学校の不正入学問題の当事者であったことが判明。内面的な葛藤や複雑な事情を演じる中で、彼女は静かながらも確かな存在感を示している。特に、友人の椎葉春乃(吉柳咲良)が窮地に陥った際に見せた感情の爆発から、『ベイビーわるきゅーれ』とはまったく異なる、抑制された中に内面の葛藤を静かに滲ませる演技まで、本作で見せた感情の発露は若手実力派としての評価を決定づけたと言ってもいい。

 特に、第7話以降で髙石が見せた表現は見事だ。言葉数が少ないながらも、その表情や佇まいからは、彼女が抱える葛藤や繊細な感情がひしひしと伝わってくる。注目すべきは、髙石の“目の演技”である。彼女は言葉に頼らず、目の微妙な動きだけで内面を雄弁に語り、シリアスな場面でも存在感を強烈に放っている。作中で不正入学問題に徐々に踏み込むにつれ、視線の揺れや微かな表情の変化を通じて、視聴者にキャラクターの深層心理を推測させるほどの巧みさを発揮しているのも、繊細な演技ゆえだろう。

 最終回では、千木が不正入学スキャンダルにどのように関わってきたのか、その全容が明らかになる。この問題は学校だけでなく政界をも巻き込む複雑な状況にあり、彼女の父親が政治家であることが物語の核心を握っている。卒業式という人生の節目を前にの中で、千木良がどのような選択をするのか、視聴者の最大の関心事だ。彼女が真実を告白するのか、あるいは御上先生やクラスメイトたちの支えによって新たな道を歩むのか、その結末に注目が集まる。

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