我らがニコケイ、殺人鬼役で全開! 『ロングレッグス』で披露した過去最高レベルの異常者度

涙の数だけ強くなれるよ……現在のニコラス・ケイジを見ていると、この聖書の一節はより実在感を持って光り輝く。この十数年のニコケイの苦労話については、映画ファンのあいだでは有名だろう。ハリウッドの超大作で主演を張った絶頂期から、主にスーパーカーや中世の城を買うなどの散財と、不動産バブルが弾けたせいで、税金が払えず600万ドル(8億円とちょっと)の借金を背負った、それからは返済のためにひたすら映画に出まくる日々。しかし、めげずに働きまくった結果、なんと借金を完済した。そのバイタリティと生真面目さには脱帽だ。もちろん「そもそも中世の城を買わなければいいのでは?」とも思うが、自らのやらかしで苦しんだあと、しかし気合で帳尻を合わせる過程を、人の成長と呼ぶのかもしれない。そして常人ならば発狂不可避の大苦労を経て過去最強に仕上がったニコケイが、満を持して猟奇殺人鬼役に挑んだのが『ロングレッグス』(2024年)だ。
90年代のアメリカ。FBI捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)は、なんとも憂鬱な雰囲気漂う片田舎で、凶悪事件を追う日々を送っていた。そんなある日、「なんとなく、あそこにいる気がする」と完全な第六感で殺人犯を見つけ出す。この特殊能力を買われて、彼女は“ロングレッグス”と名乗る連続猟奇殺人鬼の捜査を任されるのだが……。それは彼女自身の秘められた過去と、想像を絶する悪夢的事件の始まりだった。
本作は圧倒的に雰囲気がいい。冒頭からずっと人知を超えた何かが存在しているような、不穏さが付きまとう。異常殺人鬼ロングレッグスが登場するが、本作は狂人が頑張る「サイコホラー」ではなく、もっと超自然寄りの「オカルト」という言葉が似合うだろう。主人公であるハーカーは、明らかにサイキックであるし、彼女が受ける謎めいた超能力者テストも雰囲気はバッチリだ。寒々しい片田舎の景色といい、ロクなことがない『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)といった趣がある。
全体の雰囲気もバッチリだが、その中で右往左往する主人公ハーカー役のマイカ・モンローも100点満点だ。オズグッド・パーキンス監督は彼女の“顔面力”に全BETしたのだろう。とにかく彼女の顔面のアップが多い。恐怖と不安に歪みつつ、しかし事件現場に果敢に突撃していく。その顔面力は監督の狙い通り、映画がしっかりと引っ張る。まさに堂々たる主演っぷりだ。そして、もう一人の主人公、殺人鬼ロングレッグスを演じるのが、お待たせしました、我らがニコケイである。