岩波新書 × 中公新書 × ブルーバックス、新書レーベル“三兄弟”鼎談「心を同じくして助け合い、幅広い読者に本を届けん」

各レーベルの推し作品は?
ーーなるほど、書店からSNSへという大きな変化ですが、考え方によっては希望が持てるポイントかもしれませんね。続いて、それぞれの自社のイチオシ作品も聞かせてください。
中山:先ほど『ケアと編集』『ケアの物語』をご紹介いただきましたが、昨年1月に『ケアの倫理 フェミニズムの政治思想』(岡野八代)という本を出しています。3冊とも性格は大きく異なりますが、併せて読んでいただけると、時代と向き合う姿勢において通底するものを感じていただけるのではないかと思います。さらにもう一冊、あえてまったく違うものを紹介すると、蓮池薫さんの『日本人拉致』という本が5月に出ました。こちらもよく読まれています。先ほど「ノンフィクション」のお話もありましたが、岩波新書は現場性、当事者性に徹底的にこだわった作品の伝統があると思っていて、この本はその最たるものです。新書らしい一冊になっていて、岩波新書で出せてよかったなと感じています。この問題を風化させないためにもぜひ若い人たちに読んでいただきたいですし、また、普段は「岩波の本は読まない」と思っていらっしゃる方にも手に取っていただけたら嬉しいですね。
上林:イチオシ作品としては、先ほども話に出ましたが受賞が相次いだ『日ソ戦争』もそうですし、今のイスラエルの状況もあると思いますが、『ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで』(鶴見太郎)も非常に好調です。自分が関わっているものでは、『日本政治学史 丸山眞男からジェンダー論、実験政治学まで』(酒井大輔)を。政治という巨大なテーマなので各レーベルから多くの本が出ていると思いますが、そもそもそれを分析、研究して論じる学問としての日本政治学自体、非常に幅広いものがあります。それだけで何冊でも本を書けるテーマですが、新書はそこに一定の基準で線を引いて、多くは10万~12万文字くらいでまとめるわけですね。1984年生まれの著者がそれを書き上げたのもチャレンジングなことですし、議論の叩き台になりうる本だと思っています。日本の政治学を知る入り口として読んでいただけたらうれしいですね。
青木:これまでブルーバックスは、「電気とはなにか」とか「化学反応はなぜ起こるか」とか、シリーズを牽引してきたロングセラーがありまして、それが20年、30年と売れ続けてきたぶん、新たな知見を加筆する必要性が生じていたりしていて。そこで科学の根本の原理などをしっかり説明する本をアルキメデスの浮力の原理にひっかけて「エウレカ」シリーズとして送り出すことにしました。その第一弾として『電子を知れば科学がわかる 物質・量子・生命を司る小さな粒子』(江馬 一弘)を出しており、今後の10年、20年を担っていくような、学び直しにも使えるようなシリーズにしていきたいと考えています。また、家田が担当した『土と生命』は二つの点で特徴的だと考えていて、比較的固い筆致になる傾向にあるブルーバックスと比較しても、著者が比喩や自虐ネタも含めてナラティブな書き方で読ませる面白さがあり、そして単に地球科学だけの本ではなく、物理・化学・生物といった、おもしろくてためになる理科総合の本を読んでいるような幅広い学びがあります。こういう本をもっと増やしていけたらなと思っています。
ーーさて、「心を同じくして助け合い、幅広い読者に本を届けん」というところで、今後もレーベルの垣根を超えた企画などの可能性もあるでしょうか。
上林:他社の本でも、良いいものは良いと言えるのが、この業界の素晴らしいところだと思っています。今回は古い3レーベルが揃いましたが、また別のレーベルとのコラボも生まれるかもしれませんし、Xでじゃれ合うこともあるかもしれません(笑)。「新書」という一つの枠組みのなかで、切磋琢磨して面白いことをやりたい点では共通していると思うので、何かとっかかりがあれば、さまざまな企画につなげたいですね。
中山:実際、Xでのじゃれ合いからこういう企画を生んでいただいたわけなので(笑)、他のレーベルとも積極的に交流していきたいですね。時々変なポストをして、「どこかの新書レーベルが反応してくれないかな」と期待しているところもあります。実際、各社それぞれSNSの運用については方針が異なりますから、「反応したいけれど、状況的になかなかできなくて」というお話を聞くこともあって。新書を盛り上げるためにも、「交流してみるとこういういいこともあるよ」といえるようなポジティブな成果を実現したいですね。
青木:実は、「赤の岩波・緑の中公・青のブルーバックス」という感じで、ChatGPTに三国志風の絵を描かせてみたことがあるんですよ(笑)。いろいろ考えてポストするには至りませんでしたが、いつか「三読志フェア」のようなことができたらいいなと思っています。ブルーバックスも新書ですから、今後も岩波新書や中公新書のお力を借りながら、あらためて認知度を高める努力を続けられたらと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

























