『僕には鳥の言葉がわかる』や『土と生命の46億年史』がノミネート 科学書の芥川賞「講談社科学出版賞」の意義とは?

最終候補5タイトル発表 講談社科学出版賞

はじめて発表された最終候補5作

 講談社科学出版賞が、今年で第41回をむかえる。1985年に創設された本賞は、毎年すべての出版社の一般向け科学書の中で、もっとも優れた啓蒙書に贈られる。ふだん科学書に馴染みのない人でも、過去の受賞ラインナップの中に聞いたことのあるタイトルを見つけられるだろう。科学書を一般読者にひろく広める役割を担ってきた、価値ある賞だ。

 令和七(2025)年度の今回、はじめて最終候補作品に残った5冊が発表された。以下の通り、知的好奇心をくすぐる本ばかりが並ぶ。

浅田秀樹『宇宙はいかに始まったのか』(講談社ブルーバックス)

 浅田秀樹『宇宙はいかに始まったのか』(講談社ブルーバックス)は、最新の宇宙論をわかりやすく解説した一冊だ。わたしたちが宇宙誕生の痕跡を見られる日も近いと思わせてくれる。

 動物言語学者の鈴木俊貴は、これまで人間だけに備わっているとされてきた「言葉」がシジュウカラにも備わっていると提唱した。『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)は、鈴木のフィールドワークをつづった、真摯でコミカルな科学エッセイだ。

 進化論で科学に革命を起こしたダーウィン。しかしその大発見は、人類の起源や感情、動物の心理など実に多岐にわたる。昆虫の生態と進化の研究を専門とする鈴木紀之の『ダーウィン』(中公新書)は、その生涯をたどり、従来のイメージを覆すダーウィン像を描く。

 火山学者の田村芳彦による『大陸の誕生』(講談社ブルーバックス)は、「安山岩」から大陸誕生の謎を解き明かす。火星や金星にはない安山岩がなぜ地球に生まれたのか、マグマ生成のメカニズムを最新研究で探る。

 現代科学でも作れないのが「生命」と「土」。土がなければ、生命は誕生しなかった可能性がある。「土の研究者」藤井一至による『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)は、土の成り立ちを追い、地球と生命進化の謎に迫る。

 進化論、鳥の言葉、宇宙論、土、大陸の起源と、非常に幅広いジャンルの科学書が集まった。以上の中から、今年の科学出版賞が決定する。運営事務局の山田健太郎は「いずれの本も過去受賞作に勝るとも劣らない優れた作品ばかりなので、どの作品が今年の受賞作になってもおかしくないと思っています」と話す。力作揃いのなか、一体どの本が受賞するのだろうか。受賞作の発表は、7月17日(木)を予定している。

 今回は事務局をつとめた各氏に、講談社科学出版賞の成り立ちとこれからについて話を聞いた。

科学本は確かな知識を手軽に学べるメディア

鈴木俊貴『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)

 講談社科学出版賞の創設には、一般向けの科学書をめぐる時代の流れがあった。講談社ブルーバックスが創刊した1963年当時には、一般向けの科学書の数は限られていた。しかし、1975年に刊行されたブルーバックスの『ブラックホール』が半年で40万部を超えるヒットとなり、他社からも科学書が注目されるようになってくる。

 また、都筑卓司の『パズル・物理入門』『四次元の世界』『マックスウェルの悪魔』『タイムマシンの話』(いずれも講談社ブルーバックス)などが続々とヒットし、他社もふくめて、出版界の中で科学書が隆盛を迎えることになる。1981年には科学雑誌『ニュートン』の創刊、1982年には『クオーク』『オムニ』などがそれに続き、科学雑誌ブームが巻き起こった。

 事務局の森定泉は「科学書をとりまく出版状況が盛り上がる中で、当時ブルーバックスを編集していた科学図書出版部から、自然と『科学書を表彰する賞があってもよいはずだ』という声が上がり、賞の創設を提案し、1985年に科学出版賞が創設されるに至りました」と、科学出版賞創設の経緯を説明してくれた。

 科学出版賞が始まって以来、年を追うごとに、より多くの一般読者に科学本が普及するようになった。これまでの受賞作を見ても、『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)や『渋滞学』(新潮社)、『人類と気候の10万年史』(講談社)など、ベストセラーになったものが多いことも頷ける。

鈴木紀之『ダーウィン』(中公新書)

 「こうした教養書的なサイエンス読み物がベストセラーになるというところに、日本の豊かな読書文化を感じます。実際、日々の仕事のなかでも、面白い科学本を心待ちにしてくれる読者が、確かに一定数いることを実感しています」。ブルーバックス編集部の楊木文祥はこう話す。

 一般向け科学本は、「岩波科学ライブラリー」や「講談社ブルーバックス」をはじめ、さまざまな出版社や新書レーベルから、新刊が毎月出されている。ちくま学芸文庫の「Math&Science」シリーズ、ハヤカワ文庫NFシリーズの科学ラインナップなど、手に取りやすい文庫でも豊富だ。若年層向けにも、図鑑や学習マンガ、『空想科学読本』シリーズなど種類は多い。

 また、楊木は「近年は、本以外にも動画や生成AIなど学習手段が多様化していますが、確かな知識を手軽に学べるメディアとして、ぜひ科学本をあらためて評価していただければ嬉しいです」とも話す。科学書と聞くと身構えてしまうひとがいるかもしれないが、一般読者向けの科学書は最先端の理論を驚くほどわかりやすく解説している。どの本から手に取ればいいか迷っているなら、まずは今年の候補作に目を通してみるのもおすすめだ。

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