「土」をテーマにこんなに面白い本が書けるとは! 驚異のスケールで描かれる話題の新書『土と生命の46億年史』

『土と生命の46億年史』驚異のスケール

 「土」にスポットを当てた本書『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』(ブルーバックス)が、昨年12月に発売されて以降増刷を重ねている。本の帯にある〈「生命」と「土」だけは、人類には作れない〉という事実が、土の研究者である著者・藤井一至によって地球の歴史と共に解き明かされていく、内容の意外性とスケールの大きさ。そこに理系が苦手という人でも読み通せる親しみやすさが加わることで、地味に思われるテーマでもこんなにも広く受け入れられるのかと驚かされる。

 本書はまず、誰もが子どもの頃に触れて遊んだことのある、粘土についての話から始まる。46億年前に小惑星同士の衝突によってできたのが、地球だと考えられている。衝突と放射性物質の崩壊から生まれた熱エネルギーは、地球の表面をマグマの煮えたぎる海へと変える。地表面が冷めてくると、陸と海、さらには土の材料となる岩石ができあがる。ここからどうやって、土と生命が生まれたのか? 本書で鍵を握る重要な存在とされているのが、海底に堆積した粘土なのである。

 粘土は生命の材料となるアンモニアやアミノ酸などを集めて、反応を促進する。生命体がどこで発生したのかは、未だ解明されていない。だがこの物質がなければ、生命誕生のなかった可能性さえあるというのだ。さらに粘土や砂は太古の地球で、微生物のすみかとなる。そこで進化を果たし、20億年前には我々の祖先となる真核生物が登場。11億年前に水中の緑藻など植物が登場し、5億年前に地衣類とコケ植物が陸地に上陸を果たす。そしてこれらが大地を耕し、シダ植物が根を下ろして微生物たちの生存できるようになることでようやく、〈岩石が崩壊して砂や粘土と生物遺体に由来する腐植の混合物〉と定義される土が育まれていく。

 こうした土の成り立ちについて、〈スコップで変化の証拠を見せられる〉土の研究者の活動も紹介されるが、専門外の人間からするとこれまた興味深いものがある。土は地域や国によって種類や性質が異なる。そのため、たとえば土の発達を調べる時に、日本の土だけでは観察結果の解釈が難しい。そこで著者は国際学会に出席する機会があれば、会場の裏山などを掘らせてもらいサンプルを採取。〈学会の会場に到着する頃には、汗まみれ土まみれ〉となる。鉱物の変化を数十年かけて検証するタイムカプセル実験では、GPSも無い時代に埋められた実験用のサンプルを回収するため、手書きの地図を頼りに〈徳川埋蔵金、事件現場の遺留品探しと同じ要領〉の捜索が行われることになる。

 軽妙な語り口で披露されるこのような「土の研究者はつらいよ」なエピソードをはじめ、本書での肩肘を張らない雰囲気作りは、細部にわたり徹底している。本の内容に関連する化学反応は本文に入れず、巻末付録でまとめて掲載。親切にも〈嫌いな人はスルーして大丈夫〉と書いてある。壮大すぎてピンとこないかもしれない地球誕生から46億年という時間は、地球お母さん46歳(「母なる大地」から名付けられている)の半生に置き換えて概要を解説。すると土と生き物の歴史について、わかりやすいイメージ図が出来あがる。他にも、互いに栄養や美味しい成分など要求しあってダメなら排除する、植物と共生微生物の緊張感のある関係を、〈ラーメンの名店と常連客のようだ〉と例えたり。4億年も前から絶滅せずに生き延びている、ミミズやトビムシなどの土壌動物の特殊さを、「花の4億年組」と昔のアイドルみたいに括ることで強調したり。あらゆる事象を解きほぐして、身近なものとしていく。

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