「ビッグコミック」編集長・垣原英一郎が語る、いまの“大人の少年誌”「レジェンドたちの墓場でもゴールでもない」

「ビッグコミック」編集長インタビュー

 小学館の漫画誌「ビッグコミック」が創刊されたのは1968年。まだまだ“漫画は子供のもの”という印象の強かった時代に、あえて大人の男性読者に向けて作られた革新的な雑誌の1つだった。

 創刊号の執筆陣は、手塚治虫、石ノ森(石森)章太郎、水木しげる、白土三平、さいとう・たかをの5名。すでに「劇画」の描き手として知られていた白土、水木、さいとうだけでなく、それまで主に少年漫画の世界で活躍していた手塚、石ノ森も実験的な手法を用いて「大人の漫画」に挑戦している。

雑誌の表紙は今も変わらず著名人の似顔絵だ

 その後も同誌は、上記の5名の他、藤子・F・不二雄、藤子不二雄(A)、松本零士、横山光輝、赤塚不二夫、ちばてつや、楳図かずお、永井豪、上村一夫、望月三起也などなど……レジェンド級の漫画家たちの意欲的な作品を次々と掲載。

 また、それらと並行し、近年では『BLUE GIANT』(石塚真一/NUMBER 8)、『正直不動産』(大谷アキラ/夏原武/水野光博)、『JUMBO MAX』(髙橋ツトム)のようなヒット作も輩出し、そのときどきの時代の空気を取り入れながら、60年近く日本の漫画界を牽引し続けている。

 さて、そんな「ビッグコミック」の編集部に、昨年10月、新たな編集長が就任した。作家の世代交代や電子書籍の台頭などにより、“漫画の形”が大きく変わりつつあるいま、歴史ある雑誌の編集長がどのようなことを考えているのか、同誌の新編集長・垣原英一郎氏に聞いてみた。(島田一志)

「万年副編集長」だったはずが……

――まずは、垣原さんのこれまでの編集者としてのキャリアを教えてください。

垣原英一郎(以下、垣原):小学館に入社したのは1995年。入社時は「(ビッグコミック)スピリッツ」編集部を志望していたのですが、最初に配属されたのは「ビッグコミック」編集部でした。『総務部総務課山口六平太』(林律雄/高井研一郎)や、『バチワレ!いさ』(青柳裕介)などを担当し、少しは漫画の仕事に慣れてきたかな……という入社2年目に「スピリッツ」へ異動となりました。そのまま同誌の編集部には12年くらいいたのですが、その後は「ビッグコミック」と「スピリッツ」を行ったり来たりで(笑)、なんだかんだで、その2誌に15年ずつくらいいた計算になります。実はここ何年かはずっと副編集長を務めていて、「万年副編集長」などと呼ばれていたのですが……(笑)。

「ビッグコミック」編集長・垣原英一郎

――もともと漫画はお好きだったのですか?

垣原:はい。年の離れた兄の影響もあり、「少年ジャンプ」と「スピリッツ」を併読するような子供でした。漫画はなんでも読みますが、もともと車やバイクが好きなものですから、10代の頃よく読んでいたのは、『バリバリ伝説』(しげの秀一)、『湾岸ミッドナイト』(楠みちはる)、『湘南爆走族』(吉田聡)などです。それなら小学館じゃなくて講談社の入社試験を受けろよって話かもしれませんが(笑)、趣味で読む漫画と仕事で読む漫画は違うタイプの方がいいのかなと。

――実際に編集長になられて3か月ほど経って、あらためて思うところなどはありますか?

垣原:副編集長時代と変わらないところも多々ありますが、より現実的に数字を見ないといけない立場になりましたので、いままで以上に気を引き締めているところです。とはいえ、前編集長時代から何かを大きく変えようというつもりはなく、まずはスタッフたちが動きやすい環境を作りたいですね。ひいてはそれが「良い漫画」を作ることにもつながっていくと思いますし、“自分らしさ”は、そうした中で出していければいいと思っています。また、「ビッグコミック」が60年近い歴史を通して作り上げてきた雑誌のカラーみたいなものは間違いなくあると思いますので、それを継承していきたいです。

レジェンドたちの“現役感”と新しい才能に注目

――「ビッグコミック」といえば、創刊時の執筆者が手塚治虫、石ノ森章太郎、水木しげる、白土三平、さいとう・たかをという豪華メンバーだったように、“レジェンド作家の受け皿”というイメージがいまでも強いです。

垣原:そうですね。ただ、勘違いしてほしくないのは、弊誌は別にレジェンドたちの墓場でもゴールでもないということです。大御所の作家たちも、バリバリ現役で“いま”の作品を描いています。みなさん、結構他の作家をライバル視しているんですよ(笑)。クリエイターというものは、良い意味での嫉妬心を持ち続けるのが大事なんだと思いますね。競い合いの中でしか生まれないものもある、といいますか。そういう意味でも「雑誌」という“場”は、今後も存続すべきだと思います。それと、ちばてつやさんや永井豪さんのような巨匠たちと、若い漫画家が同じ土俵で戦えるような雑誌は、他にありませんからね。漫画家志望の方々は、弊誌を“遠い存在”だなどとは思わずに、ぜひ一度、持ち込みや新人賞に挑戦してみてください。

「巨匠と若い漫画家が同じ土俵で戦える」 これは歴史ある雑誌の特権かもしれない

――新人賞といえば、第10回を機にリニューアルされた、「ビッグコミック」と「ビッグコミックオリジナル」合同の「青年漫画賞」も好調なようですね。

垣原:おかげさまで良質な作品が毎回集まってきています。未知の才能と出会うと、「まだまだ漫画はいけるな」とあらためて思いますよ。浦沢直樹さん、松本大洋さん、細野不二彦さん、髙橋ツトムさんなど、毎回ゲスト審査員を変えて、飽きさせないようにしているところもいいのかもしれませんね。やっぱり、「この先生に見てほしい」という気持ちは、どんな新人さんにもあるものだと思いますから。もちろん、ゆくゆくは、彼らもそういう先生方と肩を並べて連載枠を勝ち取ってほしいと思っていますが。

“「ビッグコミック」らしさ”を守り続けるために

――ところで、漫画の電子化とそれに伴う読者・市場の変化についてはどのようにお考えですか?

垣原:個人的には電子でも漫画を読みますが、こと「ビッグコミック」の読者に関していえば、雑誌も単行本も、まだまだ紙で読んでくださっている方が主流です。年に数回、雑誌に定期購読の申し込みはがきを付けるのですが、結構申し込みがあるんですよ。

 ただ、「ビッコミ」といって、ビッグ系合同のweb漫画サイトがあるのですが、そちらでうちの作品を読んでくださっている方も徐々に増えていますので、デジタル媒体も無視はできません。たとえば、『Deep3』(水野光博/飛松良輔)という「ビッグコミック」で連載されていたバスケ漫画などは、紙の単行本よりも電子書籍の成績が良かったものですから、「ビッコミ」に連載の場を移籍しましたし、今後はwebオリジナルの連載作品も増えていくだろうと思います。ただ、いまはまだ過渡期といいますか、紙の部数が減少傾向なのは事実ですが、まだまだ紙と電子が共存している時代だと感じています。

――デジタル媒体との共存の他に、いまの「ビッグコミック」に必要なものはありますか?

垣原:これはどの雑誌の編集長も考えていることだと思いますが、常に時代の空気を取り入れていかねばならないと考えています。雑誌や漫画というものは、時代を映し出す鏡のようなものですからね。その一方で、うちのような雑誌は、普遍的なもの、たとえば、「食」だったり、「スポーツ」だったり……そうした多くの人々が常に求めているテーマを取り上げ続けるべきだとも思っています。先ほども申しましたように、「ビッグコミック」らしいカラーはすでにできていると思いますので、その部分を守りつつ、時代とリンクした雑誌作りに取り組んでいきたいですね。

目指すは100年、そしてその先だろうか

2020年代の「大人の少年誌」

――少し話は逸れますが、先ごろ刊行が開始した「諸星大二郎短編集成」(ビッグコミックス・スペシャル/全12巻)も、漫画ファンの間でかなり注目を集めていますね。同集成は、諸星先生の画業55周年を記念するものだそうですが、こうした骨太な企画が成立するのも、「ビッグコミック」ならではだと思います。

垣原:厳密にいえば、「諸星大二郎短編集成」は、隣接する編集部が手がけている企画なのですが、諸星さんは弊誌とも関係の深い作家です。増刊号連載の『諸星大二郎劇場』の他、近いところでは、本誌(2026年3号)でも、つげ義春さん原案の短編(「右舷の窓」)を寄稿していただきました。今後も連動して、諸星作品を盛り上げていきたいですね。

「ビッグコミック」2026年3号の目次

――「右舷の窓」、拝読しました。「諸星大二郎×つげ義春」という組み合わせにも驚きましたが、星野之宣先生の『宗像教授世界篇』のすぐあとに掲載されているというのも、諸星・星野両先生のファンとしては、美しい“流れ”だと思いました。

垣原:そういうところも紙の雑誌ならではの面白い読み方ですよね。いずれにしても、諸星さんにせよ、星野さんにせよ、長年、漫画の本流とはまた違った場所で独自の作品を描き続けて来た方たちが、いまではある意味では漫画の王道になっている。そういう作家さんたちが自由に漫画を描ける“場”を今後も守り続けたいですね。また、現時点ではまだ詳しくはいえませんが、弊誌では、「諸星大二郎短編集成」に匹敵する大型企画をもう2~3本、年内に始動する予定ですので、漫画ファンの方々はご期待ください。

――それでは最後に、今後の抱負などをお聞かせください。

垣原:繰り返しになりますが、まだまだ漫画は元気だし、これから新しいものもどんどん出てくることでしょう。そんな中、うちはうちらしく、古き良きものと新しいものの共存を目指していきたいです。もともと「ビッグコミック」は、「大人の少年誌」というコンセプトで創刊された雑誌なんです。「大人向けの漫画誌」という括りでは、先行誌はいくつかあるのですが(「漫画アクション」、「ヤングコミック」など)、「大人の少年誌」を標榜して作られた雑誌はいまに至るまで他にないと思います。もちろん、かつての「少年」と、いまの「少年」はイコールではありません。ですから、時代の変化を見据えたうえで、2020年代の「大人の少年誌」を作っていければいいですね。
(2026年1月30日、小学館にて収録)

「ビッグコミック」編集長・垣原英一郎

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