ささいな“日常の謎”が思いもかけない方向に……女子大生コンビが事件を解決『朝からブルマンの男』

女子大生コンビが活躍『朝からブルマンの男』

 それは作者がミステリの愛読者であるからだろう。先に触れた「紙魚の手帖」に掲載された「受賞の言葉」を読むと、両親がミステリ好きで、家の本棚にたくさんのミステリがあり、幼少期からホームズやリュパンの活躍に胸を躍らせたという。また、「学生時代の愛読書は、アシモフやチェスタトン、泡坂妻夫先生、都筑道夫先生など。いま思うと渋い趣味の子供でした」とも書いている。そのように幼少期から読んだミステリを血肉にし、本書へと結実したのである。

 だから「学生寮の幽霊」で、名探偵の存在意義について二人が会話する部分は、作者のミステリ好きぶりが伝わってきて好感が持てる。「受験の朝のドッペルゲンガー」で、緑里から渡された西村京太郎の短篇集『蜜月列車殺人事件』に収録されている「再婚旅行殺人事件」を気に入って、二人で話をする場面も楽しい。そういえば緑里は、「西村京太郎ってトラベルミステリのイメージが強いけど、実はいろんなジャンルのミステリを書いているんだよねぇ」ともいっている。この発言には全面的に同意する。『七人の証人』とか、ぶっとんだ設定で繰り広げられる、真相追及劇に驚いたなあ。

 それはそれとして、緑里の発言は、今後の作者自身の方向性も表明しているのではないか。本書で示された多彩な内容をどう発展させていくのか。本書のラストで真のバディになった志亜と緑里は、シリーズ・キャラクターになるのか。そうだといいなと願いながら、これからの活躍を楽しみにしているのである。

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