ささいな“日常の謎”が思いもかけない方向に……女子大生コンビが事件を解決『朝からブルマンの男』

多数の優れたミステリ作家を輩出した、東京創元社の「ミステリーズ!新人賞」は、二〇二三年から名称を改め、「創元ミステリ短編賞」に生まれ変わった。記念すべき第一回受賞者は、「嘘つきたちへ」の小倉千明と、「朝からブルマンの男」の水見はがねだ。その二人が、受賞作を表題にした短篇集を刊行した。さまざまな限定された舞台と少人数の登場人物を巧みにつかった『嘘つきたちへ』(東京創元社)も面白かったが、今回は『朝からブルマンの男』(東京創元社)を取り上げよう。していく連作である。
冒頭の「朝からブルマンの男」は、桜戸大学の一年生で、ミステリ研究会に所属している冬木志亜が、バイト先の〈喫茶まほろば〉で、不可解な謎と出会う。この店の大半のコーヒーは六百五十円で、日替わりのブレンドは五百円。ただしブルーマウンテン(ブルマン)だけは、最高級の豆を使っているので一杯二千円だ。そのブルマンを週三回――火、水、木曜日に注文する青年がいる。ところが味が苦手らしく、飲み残すことが多い。いったい青年は、なぜ定期的に店に来ては、飲みたくもない高い値段のブルマンを注文するか。最初に提示される、この謎が魅力的だ。実際、「紙魚の手帖」十三号に掲載された、選考委員の選評を見ると、大倉崇裕・辻堂ゆめ・米澤穂信の三氏とも、謎の魅力を高く評価している。
ただし本作の魅力はそれだけではない。この謎をミステリ研に持ち込んだ志亜は、会長で二年生の葉山緑里(なお、ミステリ研に所属しているのはこの二人だけ)と共に、あれこれ真相を考える。そこに予想外の出来事が起き、ブルマンの男の謎は、あっという間に判明する。しかしそれにより、さらに大きな謎が生まれるのだ。この展開が意表を突くものであり、作者の新人離れしたミステリ・センスを感じさせる。ささいな日常の謎が、暗号ミステリの要素も入れながら、思いもかけない方向に転がっていく。もちろん謎の真相も面白い。なるほど、受賞も納得の完成度である。
続く「学生寮の幽霊」は、桜戸大学の学生寮で起きた幽霊騒ぎを解決するよう、緑里が依頼される。言うのが遅くなったが本書は、緑里がホームズ役で、志亜がワトソン役だ。調査を始めた二人だが、幽霊が出たときの寮の部屋が、密室状態であることが明らかになる。ということで謎の焦点は密室になっているのである。
以下、単身赴任中の父親が帰ってくる金曜日の夕食だけ、ご飯の味が落ちるという「ウミガメのごはん」は、典型的な日常の謎ミステリ。小旅行に出かけた二人が、帰りの電車の中で知り合った人物から、受験日当日に友人のドッペルゲンガーを見た話を聞く「受験の朝のドッペルゲンガー」は、時刻表が登場する鉄道ミステリ。暗闇の中で宝石盗難事件が起こる「きみはリービッヒ」は、端正な犯人当てミステリだ。基本的に主人公二人の身近な場所で起こる謎を描いているが、内容は多彩なのである。





















