円堂都司昭の『BiS研究員』評:研究員はアイドル・ファンの新しい楽しみ方を研究開発していた

とはいえ、楽しいばかりではない。ネットでBiSに辛辣な意見を多数投稿する一方、ライブ会場では泥酔していた名物研究員が、40代で亡くなった話が出てくる。彼の母に取材すると、研究員としてのネットでの書きこみなどは死後に知ったという。第1期BiS再結成では、亡き彼の顔写真をつけた空気人形がリフトされたと、そのモノの写真入りで紹介されている。
ほかにも病で亡くなった研究員の近親者への取材が書かれている。印象的だったのは、故人の荷物が大量に残されていたのに、多くあったはずのBiSとのチェキだけがなかったというエピソードだ。著者は、本人が生前にそれらを整理したのだろうと推察している。
BiS結成の言い出しっぺで元メンバーのプー・ルイは、本書のインタビューで「オタクって総じて徐々にひどくなってく。愛が祟って、変わって、ひどくなって」と話している。なぜそうなるのかという著者の問いには、「みんな自分がBiSだと思ってたからじゃないですか。BiSを推している自分たちに誇りを持っていた、って言うほうが近い気がするけど」と答えていた。
第1期BiSの再結成ライブの際には、現場へ見に行った現役女性アイドルが、このグループに刺激を受けてアイドルを目指したのだとXにポストしていた。彼女は、自分もBiSのようになりたいと思ったわけだ。
しかし、研究員の大部分は、女性であるメンバーとは異なる男性であり、しかも年齢層が高い。彼らが「自分がBiSだ」と思うのは、“アイドルらしからぬ”と“アイドル・ファンらしからぬ”の“らしからぬ”を共有し、ともにBiSの場を作っているという誇りからだっただろう。グループを愛する者同士の交流と連帯、競いあいなどの結果、ノリが増幅され、時にはひどくなったりもする。
BiSは、悪ノリをある程度許容してくれる場だったこともあり、面白いことがいくつも起きた。本書はその歴史を記録すると同時に、故人が生前に整理したと想像されるチェキのように、その人自身にしかわからない思いがあることも示唆している。人間の業(ごう)や性(さが)といったものを感じる本である。
■書誌情報
『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』
著者:宗像明将
四六判/268ページ(口絵20ページ)
ISBN:978-4-909852-58-8 C0073
定価:2,750円(本体2,500円+税)
発売日:2025年1月7日
■目次
はじめに
BiS研究員 ごっちん
BiS研究員 越田修
2011年のBiSと研究員
BiS研究員 みぎちゃん
BiS研究員 Kん
2012年のBiSと研究員
BiS関係者 高橋正樹
便器の男
BiS研究員 Kたそ
2013年のBiSと研究員
BiS研究員 がすぴ〜
BiS研究員 Tumapai、あるいは田中友二へ
Tumapaiの母
2014年のBiSと研究員
BiS関係者 ギュウゾウ(電撃ネットワーク )
BiS元メンバー ミチバヤシリオ
2014年7月8日の横浜アリーナ
BiS解散後の研究員
BiS元メンバー プー・ルイ
2024年7月8日の歌舞伎町シネシティ広場
BiS年表2010-2024
あとがき
BiSオフィシャル&ブートTシャツとBiS研究員























