「2024年 国内文芸BEST 10」立花もも編 ベテランから新進気鋭まで、バラエティ豊かな10冊をセレクト

「2024年 国内文芸BEST 10」立花もも編 

 2024年の国内文芸ベスト10。毎年、言いわけのように前置きしているけれど、あくまで個人的なセレクトであり、優劣をつけるものではない(投票の結果で順位がつくのはわかるのだが、ただの一読者である自分が、順位づけをすることにどうしても心の折り合いがつかないのである。直近で読んだ小説ほど、強く印象に残りやすいものだし……)。

 そんななか、今年のセレクト理由は ①ベテラン作家たちの凄味を見せつけられた作品 ②今後に期待大!新作が出たら絶対に読む! と思った新進気鋭の作家たちの作品 の2点。以下がその10冊である。

三浦しをん『ゆびさきに魔法』

桜庭一樹『名探偵の有害性』

荻原浩『笑う森』

佐藤正午『冬に子供が生まれる』

柳広司『パンとペンの事件簿』

山崎ナオコーラ『あきらめる』

前川ほまれ『臨床のスピカ』

永嶋恵美『檜垣澤家の炎上』

南海遊『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』
滝沢志郎『月花美人』

 三浦しをんさんの『ゆびさきに魔法』は、ドエンタメであり文学という、小説のふくよかさをまざまざと見せつけられて「このお方はいったい、どこまで進化するのか……!」と衝撃を受けた。ネイルサロンを経営する40代の女性と、彼女の淡々とした日常に闖入してきた20代の陽気な新人女性。経験実績に差があるのはもちろんのこと、性格も違えば、ネイリストとしての資質も違う。一緒にいればコンプレックスを刺激されることもあるし、楽しいばかりではいられない。でも、互いを尊重し、足りないところを補い合って、成長するというよりも身を置く世界を豊かにしていく。そんな二人の絆がとても愛おしく、そして理想的なシスターフッドのかたちであると思った。ネイリストを通じて、世の中の偏見や、価値観の異なる人たちとの向き合い方に触れて、はっと気づかされる描写が多いのも、すごい。三浦しをん史上、最高傑作だと思ったけれど、次の作品はきっとまた同じことを思わせてくれるのだろうなという期待を抱かせてくれるところも含めて、すばらしかった。

 桜庭一樹さんの『名探偵の有害性』と柳広司さんの『パンとペンの事件簿』は「今こういう小説を新しくて読ませてくれるんだ……!」と胸が躍った。前者は、かつての名探偵とその助手が動画配信者から受けた「告発」をきっかけに自分たちの「罪」に向き直っていく。後者は、社会主義者・堺利彦がたちあげた売文社にもちこまれる謎を解き明かしていく、史実をもとにした連作短編。どちらも、過去と現在を行き来しながら、そのとき正しいとされていた価値観を見つめ直し、「今」を生きる私たちに示唆をくれる物語。それを、謎を追うキャラクターたちの群像劇としてただ楽しめる、エンターテインメントとしてのおもしろさを崩すことなく描き切るところに、ベテランの凄味があるように思う。

 そう言う意味で、『あきらめる』は、山崎ナオコーラさんがSF!?という驚きがあった。が、母や父というジェンダーで区別する言葉が存在せず、大人ではなく〈成熟者〉と呼ばれる近未来で、誰もが心地よく、手を取り合いながら生きていくための道を模索するような小説で、純文学のようでもあり、哲学書のようでもあり、そして児童書のようでもある、ふしぎな読み心地。山崎さんらしい真摯なまなざしが貫かれていて、ああやっぱり好きだなあ、と思わせてくれる作品であった。

 荻原浩さんの『笑う森』はずるい。ラスト、あんな解き明かしをされたら、泣くに決まっている。他方、佐藤正午『冬に子供が生まれる』はやや難解と感じる人もいるだろう。実際、読みながら、記憶していることと記録されていることは違うのだ、という私たちの不確かさを突きつけられるばかりで、今なお、物語の全体像をつかめているとは思えない。けれど、曖昧で境目のわからなくなる感覚に、身をゆだねるのもまた、読書の醍醐味。一度足を踏み入れると、なかなか抜け出せなくなる、不思議な中毒性もある小説だった。

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