「2024年 国内文芸BEST 10」立花もも編 ベテランから新進気鋭まで、バラエティ豊かな10冊をセレクト

「2024年 国内文芸BEST 10」立花もも編 

 今年、注目された作家はたくさんいるけれど、個人的にいちばん、今後の作品を楽しみにしているのが前川ほまれさん。病院職員の一人として患者をケアする、スピカという白い大型のDI犬をめぐる物語で、現役の看護師である前川さんだからこそ描ける、臨床現場のリアルが詰まっている。リアルであることが、小説の第一条件とは思わないけれど、前川さんは絶望に押しつぶされそうになっている人たちが、あがきながらもどうにか光を見出していく救いのようなものを描いてくれる。その背景にある、切々とした患者たちの事情や、心の揺れ。傷と、痛み。それはやっぱり前川さんでなくては描けない気がするし、その描写の重みが、当事者ではない私たちのなかにもひそむ、心の影に重なって響くのだ。次はどんな作品を読ませてくれるのか、楽しみ(しかし看護師の仕事も忙しそうなので、体調にはじゅうぶん気を付けてほしい…)。

 滝沢志郎さんの『月花美人』は、江戸時代に生理用品を作ろうと奔走した郷士の物語。何より驚いたのは、これが史実ではなかったことで、史実に基づき、その時代の文化習俗を描きながらも現代の問題意識に重ねていくさまは、見事。

 永嶋恵美さんの『檜垣澤家の炎上』と、南海遊さんの『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』は一気読みのミステリ。誤解を恐れずにいれば、何も考えずに楽しめる小説である。ただ物語のうねりに身を任せていれば、それだけで心が躍動し、ここではない場所に連れていかれて、現実を忘れられる。読み終えたあとは「ああ、読書ってこんなにも楽しいものだったんだ」と思い出させてくれる。長い年末年始で、心をリセットしたい人にこそ、おすすめ。


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